Friday, 23 October 2020

エリオットと友人たち(4)サム・クームス/Quasi

 
二人の息の掛け合いがぴったり!『Seal the Deal

Quasi(クアージ)は、ポートランドを拠点に活動している元夫婦で編成されているバンド。リードシンガーのサム・クームスがキーボード/ギター(元ヒートマイザーではベース)で、元スレーターキニーのジャネット・ワイスがドラムを担当。めっちゃくちゃユニークなバンドだと思います。ご存じの通り一時期エリオットのサポートをしていました。ポートランド時代、エリオットはまだ当時夫婦だった彼らの家をよく出入りしていたそうです。

サム・クームス自身も才能のあるマルチプレーヤーで、『フィギュア8』で聞かせてくれているベースの演奏も大好き(最近はジョンスペンサーのアルバムにも参加していたかな)なんですけど、エリオットの才能に関してはこう語っています。

サム:See You Later』っていう曲が(Mic City Sons/Heatmiserに)あるんだけど・・・この曲を初めて聞かせてもらって、エリオットに「この曲で家が買えるだろう」と言ったことを覚えているよ。まだ当時は家は安く買えたけどね。」2015年インタビューより)

   「エリオットとは長いつきあいなんだ。初めて会ったとき、才能のあるミュージシャンだなとは思ったーでも僕は才能のあるミュージシャンなら大勢知っているし、彼が最も才能があるなんて思ったことはなかった。でも彼は自分をただ追い込んで、この数年の間にすごい勢いで成長したんだ。僕はすぐそばからそれを見ることができて、学ぶことが本当に沢山あるー音楽的にね。それに友達でバンドの仲間である彼がそうやって頑張って、より多くの人に認められてくなんて嬉しいことだよ。」(98年インタビューより)


また、サムはサポートでツアーしていた当時のことをこう振り返っています。

   「ぼくが好きだったのはジャネットと一緒の(中略)まだ『Either/Or』の頃だったと思う。3人でツアーに出たんだ。あのバンドはクールだった。エリオットはそれまで一人でツアーをしていたけど、初めてエレクトリックバンドでツアーしたんだ。結構うるさくて、すごい速さで演奏した(笑)。エリオットがそうしたがって、彼がテンポを決めたんだ。それがすごい良かった。多くの人は気に食わなかったんだけど。ライブのあと、僕たちのところまできて「エリオットの音楽になんてことするんだ」って(笑)。僕はめちゃくちゃ腹が立ったけど、なんか嬉しくもあった、いやこれがいいんだよってね。(中略)ある意味もっと生々しい、曲の別バージョンみたいな面白い演奏の仕方だったてことが。」(オータム・ド・ワイルドのトリビュート本より)

私のQuasi サポートのお気に入りは1997年8月29日のChampoeg State Park, ORのライブです。この録音はそんなに速くないんですけどね。ダウンロードはここから。

追記(11月8日):XOツアーの素晴らしいビデオがあるのを思い出しました。こちらのテンポは速いです。

Wednesday, 21 October 2020

ゲストパフォーマンス (1) Lois / Rougher (1996)

エリオットは当初KRSではなくKレコーズとの契約を考えていたらしい。

ワシントン州オリンピアのインディレーベル、Kレコーズより1996年にリリースされた女性ミュージシャンのLois(ロイスでいいかな?)のアルバム、『Infinity Plus』の1曲目で、エリオットがボーカルとアコースティックギターで参加しています。エリオットのギターは中盤以降からリズムギターに沿う形で聞けると思います(多分)。曲の始まり方、Twilightを思い出しました。

他の曲でクレジットされているのは、元Fugaziのドラマー、Brendan CantyやLowのAlan Sparhawkなど。


Wednesday, 14 October 2020

Waltz #2 スウェーデンTVインタビュー(1998年)

服装には無頓着だけどそこは大事なのね

「シンガーソングライターっていう小さなレッテルを貼られることでうんざりしてしまうのは、そこに過度に感傷的で、歌詞でもって人を操っているというイメージがつきまとうことなんだ。あたかも歌い手がみんな自分と同じように感じさせようとしているかのように。

 NYの写真を撮ったとして、ある人はそれを見てすごく気が滅入るとか恐ろしいと思うだろうし、違う人が見ればNYでやれる楽しいことを思い浮かべるというふうに大きな違いがある。僕は歌っていうのはそんなものだと思う。」

Tuesday, 13 October 2020

エリオットとカバーソング (5) When I Paint My Masterpiece, Bob Dylan, The Band

歌詞に興味を持ってから気に入ったのは「Blood on Tracks」と「Highway 61 Revisited」の2枚だそう。


Q:最初に影響されたのは誰ですか?

A:たぶんビートルズ。それからディラン。僕の父が「くよくよするなよ(Don't Think Twice, It's All Right)」の弾き方を教えてくれたんだ。僕はディランの言葉がすごく好きなんだけど、それだけじゃなくて、ディランが言葉に深い興味を抱いているという事実がたまらなく好きなんだ。彼について好きなところはそこだ。時々僕たちは「マスターピース(When I Paint My Masterpiece) をライブで演奏するよ。(taken from les Inrockuptibles nov. 98?)

 ボブ・ディランについては恥ずかしながら詳しく知らなくて、彼の膨大なカタログの中で、なぜエリオットがこの曲をXOツアー(98年)のセットリストに選んだのだろうかと思っていました。この曲は、ディランのベスト盤(71年)と、以前に彼のバックバンドをしていたザ・バンドが先駆けてリリースしたアルバム『Cahoots』(71年)に収められていています。現在まで沢山のアーティストにカバーされていますが、有名なのはグレイトフルデッドのジェリー・ガルシアのライブでのカバーでしょうか。細野晴臣のカバーも見つけて聞きましたが素晴らしかったです。

ディランの歌詞はこれまで何度か見直されているようなのですが、エリオットが歌っていたのはザ・バンドのバージョンです。NY時代に数か月ぶっ通しで聞いていたのは、ボブ・ディランとザ・バンドの『The Basement Tapes』で、実は『The Last Waltz』もお気に入りだったそうです。

また、近年ディラン自身もまたライブのレパートリーとして歌っているらしく、ニューヨークタイムズのインタビューでもこの曲について語っています。

「この曲は、古典の世界や、手が届かないものに関係していると思う。経験を超えて到達したい場所。あまりに崇高で一流なので、その高みから決して帰ってこられないもの。思いもよらないものを達成したこと。この曲が言おうとしたのはそういうことだ。」

聴く人によって解釈が変わってくるのがこの曲の面白さだと思うのですが、ネット上で見受られるのはアーティストのクリエイティビティについて歌われた曲ではないかという意見。なるほど、私がふと頭に浮かんだのは夏目漱石の『草枕』です(笑)。この小説も歌も本当に色々な味わい方ができるので、私の頭ではもう全然ついていけないくらいなんですけど・・・(汗)

『草枕』でも『マスターピース』でも、語り手である画家は絵を描くために旅に出かける。でも最後まで決して画家は絵は描かないんですよね。その代わりに言葉でもって何枚もの「絵(イメージ)」を意識的に描いている。漱石は、彼の好んだ中国の詩書画のような描写をしたし、ディランが見せてくれるのは、なんだか史実や神話をベースにしたユーモラスなローマや、皮肉めいたブリュッセルの様子。漱石もボブ・ディランももちろん絵を描くことが本業ではないから、作品の中で<絵>を『書く』または『歌う』ことを楽しんでいるようです。

また『マスターピース』では、吟遊詩人(ディラン自身?)が古代と現代の時空を旅をしているように思えます。「Train wheels runnin’ through the back of my memory」、「On a plane ride so bumpy that I almost cried」の部分はなんだかタイムマシンに乗ってるみたいです。様々な困難の後で語り手が願うのは、「everything is gonna be smooth like a rhapsody」。現代で使われている「rhapsody(狂詩曲)」と、その語源である古代ギリシャの吟誦詩人を指す「Rhapsode(ラプソード)」の二重の意味があるのではと推測します。

But someday, everything is gonna be different When I paint that masterpiece.」で最後歌は締めくくられますが、傑作というのは長い歳月を経て初めて傑作という評価が得られるわけで、それが揺るがなくなったときに古典として存在し続けることができる。すべてのアーティストが目指す到達点といえるかもしれません。ディランがホメロスの「オデュッセイア」を最も影響を受けた文学の1つとして挙げているのも頷けます。

エリオットが『マスターピース』に関して言及しているインタビューはこれ以上見つからなかったのですが、きっとサウンドの絶妙さと想像力を掻きたてられるような歌詞にニヤッとしたのではないかと。この曲を聴くと、そんな彼の笑顔を私はイメージすることができるのです。

When I Paint My Masterpiece
マスターピース

Oh, the streets of Rome are filled with rubble,
Ancient footprints are everywhere.
You can almost think that you’re seein’ double
On a cold, dark night on the Spanish Stairs.
Got to hurry on back to my hotel room,
Where I’ve got me a date with pretty little girl from Greece*
She promised she’d be there with me
When I paint my masterpiece.

ああ、ローマの通りは瓦礫だらけ
古代の足跡がそこらじゅうに
二重の眺めのように思えるだろう
寒くて暗い夜のスペイン階段では
急いでホテルの部屋に戻らなくては
ギリシャから来た可愛い子とデートなんだ
僕と一緒にいてくれると約束してくれた
僕が傑作を描くのなら

Oh, the hours we’ve spent inside the coliseum*,
Dodging lions and wastin’ time.
Oh, those mighty kings of the jungle, I could hardly stand to see ‘em,
Yes, it sure has been a long, hard climb.
Train wheels runnin’ through the back of my memory,
When I ran on the hilltop following a pack of wild geese*.
Someday, everything is gonna be smooth like a rhapsody
When I paint my masterpiece.

ああ、コロッセウムの中で費やした時間よ、
ライオンたちをかわして無駄にした
ああ、あのジャングルの最強の王たちよ、僕は見るに堪えなかった
そう、それは確かに長く険しい登りだった
遠い記憶で列車の車輪が回ってる
野生のガチョウの群れを追って丘の頂上を駆けた時
いつか すべてはラプソディーのようになめらかに
僕が傑作を描くときに

Sailin’ ‘round the world in a dirty gondola.
Oh, to be back in the land of Coca-Cola!
薄汚れたゴンドラで世界を回ってる
ああ、コカ・コーラの地に帰るんだ!

Well I left Rome and landed in Brussels,
On a plane ride so bumpy that I almost cried.
Clergymen in uniform and young girls pullin’ muscles*
Everyone was there to greet me when I stepped inside.
Newspapermen eating candy
Had to be held down by big police.
But someday, everything is gonna be different
When I paint that masterpiece.

ローマを去ってブリュッセルに
飛行機では激しく揺れて泣きそうだった
司祭や肉離れを起こしている若い娘たち
足を踏み入れた時 誰もが私に挨拶をした
キャンディーを舐めている記者たちは
大警察に取り押さえられるべきだった
でもいつの日か 全てが変わっていくだろう
私が傑作を描くときに

with pretty little girl from Greece
ザ・バンドバージョンの歌詞で、ディランバージョンは'with Botticelli's niece'

inside the coliseum Dodging lions 
古代ローマの剣闘士を指している?

following a pack of wild geese
ガリア人による侵略の際、ローマを守ったとされる伝説のガチョウを指す?

Clergymen in uniform and young girls pullin’ muscles*
うーん、謎です。何のことかよくわかりません。私はヨーロッパでよく描かれる
絵画のモデルが頭に浮かんだんですが。。。(司祭とか裸体の宗教画とか)