Friday 20 November 2020

彼のレコードを聞いて本当にしたいことがわかった - Anything, Adrianne Lenker

 
ギターもすごいがテコンドーも強いらしい。

「(15歳の時の)ボーイフレンドにエリオット・スミスのCD(Either/Or) をもらったんだけど、それを聞いてすごくクールだって思ったわ。とてもインスパイアされたし、すごい衝撃を受けた。今だってそう。レコードの歌詞や音のクオリティ、有機的に作られているのに、心の痛みを和らげてくれる。」 (Pitchfork interviewより) 

「(当時父親と制作していたレコードに対して) 私は自分が作りたいと思っていたレコードを作っていないと気付いたの。そして本当の自分を知ることを学びたくなった、無駄を削ぎ落した彼のレコーディングから聞こえる魔法の全ても。」(NPR interviewより)

Big Thief のエイドリアン・レンカーが最も影響を受けたミュージシャンの一人にエリオット・スミスを挙げています。西マサチューセッツの山奥にあるワンルームキャビンでレコーディングされた「Songs」と「Instrumentals」という対になるアルバムが今年10月に4ADよりリリースされましたが、完全なアナログ制作によるサウンドに心が動かされました。アルバムを通して澄んだ森の空気のような雰囲気があり、今年一番好きになったアルバムかもしれません。レンカーはこのアルバム制作に関して、

「ワンルームキャビンではアコースティックギターの中にいるみたいに感じたわ。空間の中で音が 反響しあうのを聞くのが本当に嬉しくて。」

 と語っています。『ソングス』の中に収められた『エニシング』は恋人(ガールフレンド)との別離が歌われますが、まだ記憶が遠く薄れていない語り手の心の綾を見事に表現していると思います。エリオットスミスの「Either/Or」なくして彼女の作品は存在しなかったかもしれませんね。

Tuesday 17 November 2020

エリオット・スミス プレイリスト(11)He stopped loving her today / George Jones

カントリーの大御所にしてトランプぽい動かない髪形

あなたにとってのハートブレイクソングは?

ジョージ・ジョーンズの『He Stopped Loving Her Today』とニーナ・シモンのほとんどの曲。でも『He Stopped Loving Her Today』は世界で一番悲しい曲だ。この歌は、彼が彼女を愛することをやめたのは彼が死んだから、という設定なんだ。「僕は今日彼に会いに行ったよ」と死んだ男の友人の視点から歌われる、その男の葬式に行くってことなんだ。ものすごく悲しい曲だ。

From interview "Elliott Smith on the tunes that made him a man"

Sunday 15 November 2020

不確かな未来の選択 - Tomorrow Tomorrow

Amoeba Recordsでのインストアライブ。店内にものすごい人がいます。

Tomorrow Tomorrow 

Everybody knows which way you go straight to over no one
Wants to see you inside of me straight to over I heard the
Hammer at the lock say you’re deaf and dumb and done give
Yourself another talk this time make it sound like someone the

Noise is coming out, and if it’s not out now, then tomorrow
Tomorrow they took your life apart and called you failures art
They were wrong though they won't know ‘til tomorrow I got
Static in my head the reflected sound of everything tried to go

To where it led but it didn’t lead to anything the noise is
Coming out, and if it’s not out now, I know it’s just about to
Drown tomorrow out
 

みんなは知っている どちらの道を君がまっすぐに進むのか
誰も望んでいない  僕の内面の君をまっすぐに見ることを
ハンマーで錠前が叩かれる音を聞いた「君は何も聞こえない 話せない 終わってる」と 君にもう一度話をさせてやるんだ、今度こそ別人のように聞こえるよう
 
ノイズが現れる、もしそれが今でなければ、明日、明日には
君の命はバラバラにされ、君を失敗のアートと呼んだ
奴らは間違っている 明日までわからないのに
頭の中は静止してる 全てが反射された音が導かれるところへと
向かおうとした でも何も導けなかった
 
ノイズが現れる もしそれが今でないのなら 僕にはわかる 明日を
かき消してしまうことが

 


Tomorrow Tomorrow は1998年のXOレコーディングセッション(LAのSunset Sound Studios )の最中に出来上がった曲で、エリオットが事前に録りためていたデモテープにはこの曲は入っていなかったようです。彼のドキュメンタリー映画『Heaven Adores You』(2014年)の特典映像で、プロデューサーのロブ・シュナッフが曲について説明してくれています。内容はこんな感じです。
「Tomorrow Tomorrow については、(イントロの)ギターパートがあって、色々と試行錯誤していたと思う。全てが流れるように彼から出てきたわけじゃないんだ。でも、この曲のバージョンは間違いなくスタジオで生まれた。「よし!ここはこう、次はこうやって、初めからやってみよう」という感じで、そこから一挙に。エリオットは普通のギターを弾いていたんだけど、僕は高弦チューニング(ナッシュビルチューニング)にした12弦ギターを持っていたから、そこから低弦を外してすごく近い音階の、よりピアノみたいな音になった。ただしE弦とB弦はユニゾンで残してね。」

 この頃のエリオットは音楽的な面から言えば、とても調子の良かったころだったのでしょう。初めてちゃんとしたスタジオで沢山の機材、楽器に触れ、長年書きためていた曲についてもどのように仕上げたらいいのか、インスピレーションが次々に降りてくるという状態だったようです。また当時彼の所属するメジャーレーベル、ドリームワークスのスタッフも彼に理解を示し、メジャーレーベルからの出資が得られるのに、ヒット曲やラジオでのエアプレイにプレッシャーをかけなかったことも彼の満足する音を追求できたことに繋がったと思います。

また、NYでは主にバーでの曲作りをしていたことについてエリオットはこう語っています。

「のぞき見的な方法ではないんだ。他人の人生を立ち聞きするために街に出て曲を書こうとしたわけじゃない。それじゃ人食いみたいだよね。僕はただバーのホワイトノイズが好きなんだ。何かいつも起ってるっていうことだよね。でも、目を凝らしてそこにいるわけじゃない。」

Tomorrow Tomorrow の歌詞は、抽象的でディテールが欠けていて、聞いた人は自分で考えて歌詞を完成させる作業をやらなきゃいけないのかもしれません。Noiseってなんだろうとか、Tomorrowは明日や未来という意味以外になにかあるんだろうとか。もちろん特に意味なんて考えずにサウンドに集中してるだけでもいいかもしれないし・・・

ぱっと直観で感じることがこの曲の聞き方なのかもしれませんが、私なりに頭でもちょっと考えてみました。

歌詞で注目すべきなのは、XOの1曲目で「Sweet Adeline」で歌われたdeaf and dumb and done (も聞こえない 話せない 終わってる)という歌詞がもう一度出てくるところでしょうか。「Tomorrow Tomorrow」ではそのあとに、give yourself another talk と歌われている。どちらの方向へ行けば良いのかわかっている理性的な自分Everybody knows which way you go)と相容れない心の中の自分no one wants to see you inside of me)とのコミュニケーションが表現されている。語り手はなんとかして答えを導こうとしようとした(the reflected sound of everything tried to go to where it led )。だが、それは困難だった(it didn’t lead to anything)音は否応なく現れてくる。今でなければ、未来はなくなってしまう。(the noise is coming out, and if it’s not out now, I know it’s just about to drown tomorrow out)

自伝的な見方では、当時のエリオットの心の中を説明しているのかもしれません。友人たちの仲介によるリハビリの提案を彼ははねのけて、音楽を作り続けるという自分の心の声に従った。それが不確かな未来を招く恐れがあろうとも。その声や音が「Noise」で、「Sound」は理性的な声(Sound という単語には「安全な、堅実な」という意味もある)という風にとれるかもしれません。もしくは、そういった理知的な声をノイズ(アルコールやドラッグなどで)で聞こえなくするという風にも聞こえるかもしれません。

それだけにとどまらず、私たちは人生において一体どの声に従って何を選択し、未来を作り出すのか。創造するというプロセスは一体どういったものなのかという普遍的なテーマも感じれるような気がします。

参考:33 1/3, XO by Matthew LeMay, 2009 

おまけ:もしかしたら、Tomorrow TomorrowってタイトルNYブロードウェイミュージカルの「Annie」からとったりしてませんか、スミスさん?それとも、映画「風と共に去りぬ」の最後のセリフ「Tomorrow is another day」とか?