Wednesday 24 October 2018

Division Day 7インチシングルの名曲



「Roman Candle」以来のエリオット・スミスファンだというデビット・ディッケンソンが立ち上げたシアトル発インディレーベル、その名もSuicide Squeeze(!)からの7インチシングルDivision Day(1996年頃リリース、Either/Orの頃)を取り上げたいと思います。明るいアップビートなメロディに乗せた、これでもかというメランコリーな歌詞で困ってしまうのですが、ライブでも頻繁に取り上げられていたのでお気に入りの曲ではなかったでしょうか?

Division Dayという言葉はエリオットの造語ですが、「魂」と「肉体」が分かれる日という考え方がしっくり来るのではないかと思います。告白調の歌詞ですが、継父からの虐待の関係を歌ったのか、自殺願望について歌ったのか、バンドからの離脱について歌ったのか、大好きだったポートランドを去ってNYへと活動拠点を移すことを歌ったのか、エリオット自身がレコード会社と契約する際にしたとされる音楽出版社との取引(著作権の売却)について歌ったのか、オスカーにノミネートされた曲「ミス・ミザリー」を自身のセルアウトと感じて歌ったのか、聞く人それぞれだと思います。多面的、彫刻的とも言える歌詞ではないでしょうか。

「月」のモチーフがここでも出てきます。水面に写った月光とそれを眺める男、光に誘われて自滅するイメージが浮かび上がります。もしかしたら、この部分はヘンリーマンシーニ作の「Moon River」にインスパイアされているかもしれません。

私自身はこの歌は、彼が魂を込めて創造したアートがレコードになるというのは、その産業に取り込まれて結局「作品(=魂)を売る」のような状況にしかならないこと、そしてその魂は彼自身から離され、自分の思い通りにならない方法で売られてしまう、それでもそんな思いをしてまで聴衆に曲を届ける。それがDivision Dayである。そんなことを歌ったのでは・・・と思っています。

(相変わらず、誤訳は覚悟の上です!)

Division Day 

There was grown man dying from fright
So surprised by the things he'd say
With a giant fantasy life
Running 'round on feet of clay

大の男が突然の恐怖で死んでいく
彼が言ってしまいそうなことに慄いて
巨大な空想上の生き物と
知られざる弱みを持ったままうろういている

Naked except for a perpetual debt
That couldn't be stripped away
An unrightable wrong that moved him
Along closer to division day

剥ぎ取れなかった永久債
それ以外は裸のままで
取り返しのつかない過ちが
彼を分かれの日へと駆り立てる

Spent a long time living with that
Never could give it a name
And when you don't know what you're
Looking at it makes it much harder to take

そのことを抱えながら長い時間を費やした
何と呼んでいいかもわからなかった
そして自分が何者かわからない時
その日について考えるのはもっと受け入れがたい

Mostly they'd meet when he was
Asleep and have some sick exchange
That stuck him as wrong and moved him
Along closer to division day

彼が眠っていたときに

大抵奴らが会いにきて気味の悪い取引をする
不義と追い詰められた彼を
分かれの日へと駆り立てる

I can't make an exception for a bad
Connection that only goes one way
Sell out for a song where I don't belong
With you on division day

一方的にしか聞こえない回線不良の
例外なんて認められるわけがない
君のものでなくなってしまった歌への裏切り
分かれの日に

The moon stood up on the ridge
Looking down where the water shines
And a man looking over the bridge
Like he done so many times

山の尾根に上る月が

水面の輝きを見下ろしている
一人の男が橋を見渡している
何度もそうしてきたように

Thinking about how to stay out
Out of troubles way and
Flying to fall away from you all
It's over division day
Beautiful division day

どうやったら厄介な道に巻き込まれないのか
君たちから離れるため飛んでしまおうと
分かれの日は終わった
美しい分かれの日

Thinking about how to stay out
Out of troubles way
Flying to fall away from you all
It's over division day
Beautiful division day

どうやったら厄介な道に巻き込まれないのか
君たちから離れるため飛んでしまおうと
分かれの日は終わった
美しい分かれの日


2020年9月6日に加筆しました。

Friday 19 October 2018

エリオット・スミス プレイリスト(2)Television - Marquee Moon (Live SF 78)



あなたにとってパーフェクトな2:45amアルバムは?というファンからの質問に、エリオット・スミスはテレヴィジョンのマーキームーンとニコのマーブルインデックスと答えています。

ライブバージョンのカッコいいの見つけました。

http://www.sweetadeline.net/32800chat.htmlより参照


Plainclothes Man ヒートマイザーラストのビデオ

1996年にリリースされたヒートマイザーのラストアルバム「Mic City Sons」の収録曲「Plainclothes Man」のメロディに心奪われた私ですが、この曲のMVに関しては、youtubeの画像が良くないというのもあって、あんまりじっくり見ていませんでした。

ですが、エリオットが残した「オフィシャル」音楽ビデオを最近すごく見直していて、映像に関しての彼のこだわり方もすごく面白いなあと思っています。あくまでアンチMTVな感じでいくっていう感じが(笑)。

ヒートマイザーの「Plainclothes Man」、エリオットのソロ「Coming Up Roses」、そして「Miss Misery」の3本のMVを担当したのはカリフォルニアで活動するRoss Harrisという人で、当時はベックの写真などを撮っていたそうです。エリオットは事前に用意されたプロットで作り込んだ当世風ビデオは作りたくなかったそうで、即興性を重視した作品になっていると思います。「Coming Up Roses」はSuper8で撮影しているから、エリオットお気に入りの映画だったヴィム・ヴェンダースの「パリ、テキサス」もインスピレーションだったかもしれないと妄想したり。

「Plainclothes Man」は、バンドとしてのMVなので一応ちゃんとクルーがいたり、おおまかなプロットはあったようです。場所はカリフォルニア州のSanta Pauraという街で撮影されています。バンドの演奏はメキシカンディスコで行われたようです。うらぶれた男がボート、窓際にいる女性と警官のカップル、コンビニらしき店で売られているコンドームの箱などを見るたびに、白昼夢の世界に浸るというちょっとシュールな内容で、バンドはビートルズのメンバーが持つ楽器(エリオットはジョンのリッケンバッカー、ニール・ガストはジョージのジャガー、サム・クームスはポールのヘフナー)でビートルズオマージュ風?で演奏、途中にエリオットがニールにタックル入れるシーンは、当時のバンド内の緊張をジョークにしたものらしいです。男が店でお酒を買うシーンの裏側でエリオットがトイレットペーパーを万引きする姿も可笑しいです。

この曲の歌詞は、語り手に執拗につきまとい破壊させようと、夢の中や現実のあちこちに現れる威厳的な存在<Plainclothes man、私服警官>と、語り手の内面の混乱、記憶のフラッシュバック、不信などを語っているような気がします。継父Charlieが投影されているのは確かですが、someone(誰か)という代名詞が使われているので(Someone's gonna get to you And fuck up everything you do、過度にパーソナルな歌詞にならないような感じも受けます。Recover my love of herの「her」は自分を守ってくれなかった母親のことを歌っているのかもしれません。

また、同時に歌詞のyou(お前)の部分を「君」と訳せば、当時の恋人への別れのメッセージのようにも聞こえてきます。こうなると和訳するのがほとんど不可能に思えるのですが、エリオットの歌詞はマルチレイヤード(意味が幾層にも重なる)であるがゆえに、聞く人によって全く解釈が違うものになり、これが彼の作詞家としての評価につながっていると思います。

この曲はエリオットが亡くなった年(2003年)にライブのセットリストによく入っていました。ヒートマイザーのバンドメンバーに対して自分が解散時に辛辣な発言をプレスにしたことを後悔していると生前のインタビューで語っています。きっと和解を求めていたんですよね。

Plainclothes man

お前はみんなの第二の居場所にいる

いつも僕と二人きりになろうとする
自分を抑えられなくなる簡単なやり方だ
それが出来なくたってお前はいつもそこにいる
ウェストサイド鉄道のすぐ向こう側に

でも 今そんなものは必要じゃない

欲しいと思ったことなんて一度たりともない
僕にはお酒だけが本当に必要だった
自分を大丈夫にしてくれたり
言いそうになることを黙っておける何かが

お願いだ、ライトを消してくれないか

ひどく混乱した頭痛なんだ
誰が正しいのかをわかろうとして

シルバーストランドで夢を見ているときに

私服警官のせいで目を覚ます
馬鹿なやつ、小さなお巡り
誰かがやってきては
やることなすことを全部台無しにする

彼は心では不幸なんだ*

誰に対しても面白くないんだ
怒りのキスで君を手に入れられると思っている
自分は何もいらないふりをしておきながら
あいつが血を流すのを君に見せたつけたくて

一緒でいる運命なのに、君は僕のことを気にかけない

僕は絶え間なく擦り減っていく
みんなは僕がまた彼女を愛せるようになるというけれど
僕にはわからない
そう思わないんだ

伝えたいことがあるんだ

今は他に誰もここにいないから
痛い思いから学んだこと
お前のもくろんだ通りではなくても
お前にはわかるだろう

誰かが写真を撮っている

彼らの愛しい子が笑っている写真を
フラッシュが瞬く完璧な瞬間
3から1へと逆に数えた
それはまさにお前がやったこと
全然驚かないよ
僕は忘れない、忘れない、何故僕の夢には色がないってことを

僕は絶え間なく擦り減っていく

みんなは僕がまた彼女を愛せるようになるというけれど
僕にはわからない
僕にはそう思えないんだ

24/10/18追記
加筆・訂正しました。
*赤印の歌詞の原文は聞き取りにくいらしく、
He's so unhappy inside 
Some European son (とあるヨーロッパの息子は)
He's serious with everyone 
→ He's furious with everyone(誰に対しても腹を立てているんだ)
と聞こえるようです。確かに。「European Son」はヴェルヴェット・アンダーグラウンドの曲名からの引用ですが、紫色の歌詞のほうが歌詞として意味が通るかもしれません。どちらにしてもあんまりちゃんと聞こえないようにエリオットはゴニャゴニャと歌っている気がするんですが・・・


Wednesday 10 October 2018

エリオット・スミス プレイリスト(1) Stevie Wonder - Don't You Worry 'Bout a Thing



エリオット・スミスはバーで友人と飲んだりするとき、ジュークボックスに小銭をつぎ込んでよく自分の好きな曲をかけたそうです。エリオット・スミス プレイリストでは常人とちょっと違う目(耳?)線で聞いていた彼の好きだった曲、カバーした曲などを紹介していきたいと思います。

1曲目はStevie Wonder のDon't You Worry 'Bout a Thing’。オータム・デワイルドAutumn de Wilde(フィギュア8のアルバムデザインやSon of Samのビデオなどを手がけたフォトグラファー)と初めて出かけたときに彼がかけてくれたそうです!

Monday 8 October 2018

Condor Ave. 短編映画のようなエリオット・スミスの歌詞


↑アンプの上に座って演奏する若き日のエリオット君。椅子、なかったん?


エリオット・スミスの音楽に興味を持った人は、彼の歌詞についてもきっと深く知りたいと思うようになるのではないでしょうか?彼の音楽が未だ多くの人に聞き継がれているのは、彼独特の歌詞の世界によるところが多いと思います。

ささやくような柔かなボーカルに繊細なアコースティック・ギターの演奏、耳に残る美しいメロディ、なのに歌詞は生々しく、陰鬱、哲学的で謎めいている。万華鏡のように聞く人によって異なる歌詞の変幻性。彼は溢れんばかりの自分の言葉を沢山持っていたし、それを1曲の歌の中に緻密に、かつ自然に凝縮させる事を知っていました。

ソロ・デビューアルバムの「Roman Candle」の中の”Condor Ave” はエリオット・スミスが17歳の時に作った古い曲だそうです。大学時代のバンド、A Murder of Crowsで初期の録音が残されています。「Roman Candle」バージョンになるまでに何度も修正されているようで、これ以降のアルバムに見られるエリオットの歌詞の特徴が現れつつも、まだ完全には「エリオット節」になっていない青さのようなものがあるかもしれません。彼曰く、「この歌は言葉が多すぎる」らしく、ライブでリクエストされても演奏をよく渋っていたようです。

音楽で織りなす短編映画?

まず気がつくのは、この歌がまるでいくつかの短いシークエンスをつないだ物語であること。登場人物は、She(彼女)、I(僕)、Drunk man(酔っぱらい)、Cops(警官)でしょうか。場面はコンドルアベニュー(ポートランドにも存在するがエリオットの描く架空の通り?)ストーリーは、僕との口論の後、車に乗って去ってしまった彼女が、移動遊園地の入口にいた酒酔いの男をはねる。僕は彼女が月に向かって車を走らせる姿を見たときに誰か(おそらく彼女自身?)がコンドル通りであった事故で燃え尽きてしまう。現実と幻想が入り混じったようなこの歌は、自分と彼女がわかりあえなかった事が招いた悲劇を描いているのではないでしょうか。もしくは彼女との関係の終わりが、彼女と酒酔いの男の「死」として歌中で示唆されているのかもしれません。(他にも「Happiness」の冒頭の歌詞は全く同じような交通事故による死の場面が出てきます)もちろん、どのように歌詞を受け取るかは全くの自由で、歌詞をある一定の意味に押し込め、聞く人を誘導するのはエリオット自身が一番嫌ったことでもあります。


イメージがわく音や光が歌詞に散りばめられている

まず、聞く人たちの想像力を掻き立ててくれます。

音(Voice Dry and Hoarse, the chimes, threw the screen door like a bastard,  the sound of the car driving off/A sick shouting)

静けさ(rhythmic quietude, a whisper, blowing smoke)

暗闇の中の光(Lights burning, fairground's lit, light bulb, the moon, the headlights burning, someone's burning on Condor Ave.)

シンボルや比喩で意味を伝える

エリオットが操るいくつかの言葉には、その言葉どおりの意味に加えて、何かしら比喩的なものががっつり盛り込まれているんですよね。特に印象的なのは、

They Never Get Uptight When A Moth Gets Crushed
Unless A Light Bulb Really Loved Him Very Much
奴らは蛾が電球に寄って死ぬくらいではどうってことないんだ
電球が蛾を本当に愛さない限りは

蛾は電球に寄せ付けられるようにして自滅してしまうもの。愛されないものに近づいて傷ついてしまう。どこか自己破壊的ですよね。またこの「蛾と電球」の関係は「彼女の乗ったOldsmobileと月」のイメージとオーバーラップします。

また、謎の酒酔いの描写は、どこか<僕>を投影しているようでもあります。帽子を目深にかぶり、酒瓶を口にくわえたまま、身動きすることもできない。死ぬまで無口で自分をさらけだせなかった不器用な男を思わせます。

Got His Hat Tipped Bottle Back In Between His Teeth
Looks Like He's Buried In The Sand At The Beach
帽子を目深にかぶったまま酒瓶を口に加えている
彼はまるで砂浜に埋められているみたいだ


They Took Away The Bottle And The Hat He Was Under
That's The One Thing That He Could Never Do
奴らは酒瓶と彼の上にあった帽子を取り上げた
それは彼が決してすることの出来なかったこと

他にも、
Moon (死や天国のような存在)
Cops(法的なもの、命令、死の傍観者)
Smoke(煙草の煙は、<言うことが出来なかった言葉>としての意味合いが大きい)
Car accident (機能しなくなってしまった人間関係、愛の終わり)

そしてこれらのシンボルは彼の他の詞のなかでもしばしば登場します。


エリオットの決めの最後のフレーズ?

いろんな方が指摘している通り、エリオットの歌詞の最後で締めくくられる言葉はとてもインパクトがあって頭にこびりつくフレーズが多いです。”Condor Ave.” ではこの最後のフレーズは冒頭にあった言い争いのときの言葉で、時間が遡って曲が終わっているような気がするのですが・・・

What A Shitty Thing To Say
Did You Really Mean It?
You Never Said A Word To Me About What Passed Between Us
So Now I'm Leaving You Alone
You Can Do Whatever The Hell You Want To

なんて馬鹿なことを
君は本気で言ってるの?
自分たちにどんなことがあったか何一つ言ってくれなかった
もう出ていくよ
勝手にすればいい


これは彼女のセリフ?それとも僕のセリフ?それとも二人の会話?わからない!YouとIが誰だかわからない(ナレーターは決してはっきりさせない)ので混乱する。深読みしたくなってしまいます。

(誤訳は覚悟の上で・・・)


コンドルアベニュー

彼女はオールズモービルに乗ってコンドルアベニューを通っていく

車の中に閉じこもり、リズムを打つ静寂の中に潜り込む
煌々とした灯り
乾いたかすれ声
僕は乱暴に網戸を叩きつける
呼び鈴が転がり落ち
僕は膝を折れて崩れ落ちる
移動遊園地で聞こえてくる病的な叫びに似た
車を走らせる音に僕は気が滅入る
ちらかっている君のものを拾い上げているけれど
君の服や手紙なんてどうしたらいいかわからない
君のささやきが聞こえてくるんだ

彼女はオールズモービルに乗ってコンドルアベニューを通っていく

移動遊園地に灯りがともされ
彼女が通り抜けた入口に酒酔いの男が座っている
帽子を目深にかぶったまま酒瓶を口に加えている
彼はまるで砂浜に埋められているみたいだ
僕は直線道路で居眠りしてしまうくらい眠たいままで
車を走らせた君を気遣えないよ
その車が決して見つからなければいいのに
奴らは酒瓶と男の上にあった帽子を取り上げた
それは彼が決してすることの出来なかったこと
そして君のささやきが聞こえてくるんだ

彼女はオールズモービルに乗ってコンドルアベニューを通っていく
警官たちが現場に駆けつけ
手がかりを探している
奴らは蛾が電球に寄って死ぬくらいではどうってことないんだ
電球が蛾を本当に愛さない限りは
僕は横たわって
煙草の煙をふかしている
君が受け取ることのない微かな煙のささやきのサインを
オールズモービルに乗る君は月の周りを走っている
君の眼の前には真っ赤に燃えるヘッドライト
そして誰かががコンドルアベニューで燃え尽きる
君のささやきが聞こえそうなのに

なんて馬鹿なことを
君は本気で言ってるの?
自分たちにどんなことがあったか何一つ言ってくれなかった
もう出ていくよ
勝手にすればいい
Na na na na na na (これ大事)