Friday 25 January 2019

エリオット・スミス プレイリスト(5)Ry Cooder, Paris, Texas Soundtrack



一番好きな映画はヴィム・ヴェンダースの「パリ・テキサス」と答えた後に、

「・・・ライ・クーダーの音楽も(映画と同じくらい)素晴らしくて、とても暗示的だ。サウンドトラックにストーリーを語らせることなく長いシークエンスのシーンを際立たせる。僕と違って、彼はサウンドトラックの巧妙な術というものを知っているんだ。映画の色や音にこだわり、映画が編集されてしまえばせいぜい曲の一部しか流れない小細工のような歌は作ったりしていない」

21/04/00 Les Inrockuptibles magazine より引用

Wednesday 23 January 2019

月の三部作(Coming Up Roses, Satellite, St Ides Heaven)

Either/Orのアルバムについて色々考えているのですが、まだもう少しセルフタイトルアルバムに散りばめられている「月」のイメージについて掘り下げてみようと思います。

まず月についてエリオットが語っているインタビューを引用します


インタビュアー:もしかしたら分析しすぎなのかもしれないけど、結構な曲の歌詞の中で月が出てくるのに気づいたんだ。「Coming Up Roses」でしょ。

エリオット:そうだね。
インタビュアー:「St Ides Heaven」に、思い出せないけどもう一曲(訳者注:Satellite)、それに「Division Day」。月のイメージやその象徴は君にとって個人的な意味があるの?
エリオット:長い期間、僕は夜歩いてるときに曲を思いついたんだ、ただ夜歩くのが好きだったんだ。だから月は沢山見たよ。月は本当に使い古されたイメージだけど、使い古されたイメージを使う手はいつだってある。そういったイメージを新しくするとか、少なくともやってみようと。上手くいったとは言えないけど・・・でも最近もうあんまり月は見てないんだ。NYに住んでいるから。

と、何一つ彼ははっきり説明していないわけですが、彼にとっての「月」を表現しようと意図していたことは間違いありません。

上記にもある通り、セルフタイトルアルバムの中の歌詞に「Moon」の単語が出てくるのは3曲(Coming Up Roses, Satellite, St Ides Heaven)ですが、そのいずれも難解で、不明瞭な部分が多いと思います。エリオットがどのような「月」のイメージにインスパイアされたかを知ることは出来ませんが、私はテレヴィジョンの「Marquee Moon」や、ルー・リードの「Satellite of Love」には少なくとも影響されたんじゃないかと思います。

月がテーマの歌って数えきれない程あって、名曲も沢山ありますよね。ボブ・ディランがパーソナリティのラジオ番組テーマタイムラジオ・アワー』でも月をテーマにした曲が特集されていてこれも興味深いのですが、エリオットが歌ったカバーでは、ニール・ヤングの「Harvest Moon」、月と関連づけていいかはちょっと苦しいところですが、ボブ・ディランの「Moonshiner」(密造酒屋、夜に非合法の商売をする人を指す俗語で、トラディショナルソングをカバーした曲)があります。

またもや誤訳やひとりよがり解釈を承知で!エリオットの歌が決して1つの意味に限定されたものでないことをお忘れなく。


サングラスかけたエリオット。こけるシーンが見どころ。

Coming Up Roses
カミング・アップ・ローゼズ

I’m a junkyard full of false starts
And I don’t need your permission
To bury my love under this bare light bulb
The moon is a sickle cell
It’ll kill you in time
You cold white brother riding your blood
Like spun glass in sore eyes
While the moon does it’s division you’re buried below
And you’re coming up roses everywhere you go
Red roses follow
僕は間違いだらけの廃品置き場
君の許可はいらない
この裸電球の下に僕の愛を埋めてしまうのに
月は鎌状赤血球
やがて君を殺してしまう
君の血に乗りかかる冷たくて白い兄弟
ひりひりとした目の中入った糸ガラスみたいに
月が分かれている間、君は下に埋められる
そしてバラがどこに行っても咲いている
赤いバラが

The things that you tell yourself
They’ll kill you in time
You cold white brother alive in your blood
Spinning in the night sky
While the moon does it’s division you’re buried below
And you’re coming up roses everywhere you go
Red roses
君が自分に話していることは
やがて君を殺してしまうだろう
君の血には冷たい白い兄弟が生きている
夜の空に回転して
月が分かれている間、君は下に埋められる
そしてバラがどこに行っても咲いている
赤いバラが

So you got in a kind of trouble that nobody knows
And you’re coming up roses everywhere you go
Red roses
誰も知らない厄介事に君は巻き込まれている
そしてバラがどこに行っても咲いている
赤いバラが


シュールなイメージが次々と現れるこの曲では、沢山の言葉遊び、ダブルミーニングに彩られているため、和訳って可能なのかわかりません。

・false starts とは、本来はフライングや、言い掛けたことが間違っていると気づくことの意。失敗や後悔でいっぱいのというような意味にとれる。

・this bare light bulb(裸電球) はCondor Aveにも出てきますが、自己破壊的な光のイメージ。限りある生命というふうにもとれるかも。

・moon is a sickle cellというフレーズに出てくる鎌状赤血球とは、鎌状赤血球貧血症に見られる、血液の形状が三日月の形になる状態

・You cold white brother riding your bloodはドラッグのシューティングのイメージと重なる。訳者には鬱病の症状(というか気分の落ち込み)が始まった時を表しているようにも思える。

coming up rosesは上手くいっているという意味を表す慣用句だが、もう一つの似たような慣用句で意味が全く異なるpushing up daisies(死んで埋められて)と関連しているかもしれない。

他のサイトで歌詞の意味や解釈を探してみたりするのですが、この詩は意味よりかは歌詞の持つヴィジュアルなイメージのほうが大事なのかもしれません。語り手は死、病気、依存、人間関係といったトラブルに取り巻かれている。語り手の生のエネルギーや気分の変化を月の満ち欠けに例え、月の形が欠けているときは、自分はまるで地面に埋められているようだと。また、それ故に彼は人を愛することへの自信を失っていたり、そのトラブルを他人に打ち明けることが出来ない。にもかかわらず、万事上手く行っている(振り)をして隠している。どんな人であっても、何か心のトラブルや痛みを隠して何の問題もないように振るまっている、そんな歌なのかもしれません。


個人的に好きな曲です

Satellite 
サテライト

While the hands are pointing up midnight
You’re a question mark coming after people you watched collide
You can ask what you want to the satellite
‘Cause the names you drop put ice in my veins
And for all you know you’re the only one who finds it strange
When they call it a lover’s moon
The satellite
Cos it acts just like lovers do
The satellite
A burned out world you know
Staying up all night
The satellite

真夜中、上を指さすとき
衝突した人々を見た後に、君は首をかしげる
サテライトになら君は聞きたいことを聞けるんだ
何故なら君が口にした名前は僕を冷血にさせるから
多分、君だけが不思議に思っている
恋人の月 と人が呼ぶ時
サテライト
まるで恋人達がすることと同じようだから
サテライト
焼けつくされた世界だろう
一晩中起きている
サテライト

地球に対しての衛星(サテライト)である「月」について歌っている。星とその衛星の関係はまるで恋人同士の様に言われるが、語り手にとっては疑がわしい。月は通常、夢やロマンスを象徴していることが多いが、この曲では月は冷やかな傍観者(=語り手?)のようであって(A burned out world、Staying up all night)地球から孤立した寂しい古の光(Satellite のサビの部分がSad Old Lightと聞こえませんか?)が語り手の疎外感を表しているよう。サウンド的にはものすごくロマンティックだと思うので、恋人に対して自分自身をさらけ出しているような気もします。


きれいな映像で手元がよく見えます。

St Ides Heaven 
セント・アイデス・ヘヴン
Everything is exactly right
When I walk around here drunk every night
With an open container from 7-11
In St. Ides heaven
全てがまさにうってつけ
セブンイレブンから栓を抜いた瓶を手に
僕が毎夜このあたりをうろつく頃
セントアイデスで天国の心地

I’ve been out haunting the neighborhood

And everybody can see I’m no good
When I’m walking out between parked cars
With my head full of stars
僕はこの界隈をたむろしている
みんなには僕がろくな奴じゃないと見える
路駐した車の隙間から歩き出すとき
頭の中には満点の星

High on amphetamines

The moon is a light bulb breaking
It’ll go around with anyone
But it won’t come down for anyone
アンフェタミンでハイになって
月は壊れかけの電球
誰とだって回るけれど
誰かのために降りたりはしない

You think you know what brings me down

That I want those things you could never allow
You see me smiling you think it’s a frown
Turned upside down
君は僕がどうすれば落ち込むかわかっていると思ってる
僕がしたくても君がさせてくれないこと
僕が笑っていると見えて、顔をしかめてると思っている
あべこべなのに

‘Cause everyone is a fucking pro

And they all got answers from trouble they’ve known
And they all got to say what you should and shouldn’t do
Though they don’t have a clue
なぜなら皆たいそうなプロばかりなんだ
自分たちが知ってる厄介事の答えがわかっているから
それをやれ、あれをやるなと君に言いたがる
少しもわかっちゃいないくせに

High on amphetamines
The moon is a light bulb breaking
It’ll go around with anyone
But it won’t come down for anyone
And I won’t come down for anyone
アンフェタミンでハイになって
月は壊れかけの電球
誰とだって回るけれど
誰かのために降りてくることはない

そして僕は誰のためにも降りることはない


月は壊れかけの電球(The is a light bulb breaking)のところでまたもや、電球のイメージが出てきます。パンクなのか頑固者の歌詞なのか・・・壊れかけの電球というのは、語り手の限りある若さや命といったものを表しているのでは?High on amphetamineではドラッグという直接的な単語を使ってはいるものの、中毒と言えるほどのめり込んでしまうもの(例:恋愛や音楽、もちろんアルコールやドラッグを含め)でハイになっている状態といったほうがしっくりくると思います。他人にどう思われようと、自分は他人の人生を生きるのはごめんだというようなポジティブなエネルギーに溢れているような気がします。少なくとも私には。

Tuesday 1 January 2019

エリオットとカバーソング (1) / Beatles, John Lennon


エリオット・スミスが2001年の1月号のスピンマガジンに寄せた文章です。ジョン・レノンの30年目の命日にちなんで、彼のお気に入りのジョン・レノンの曲について語っています。説明するまでもなく、エリオットが一番影響を受けているバンドはビートルズですが、彼がビートルズについて語るとき、なんだかその熱がこっちにも感染してきそうです。

この頃(2000年?)のエリオットは、やっぱりドラッグをしていた頃でしょうか。。。なんとなく文章の端々にそういったことが見え隠れしています。この先に起こることを予見していたような感じです。エリオットはカバーをするとき、ただ好きだからという理由だけではなく、彼の気持ちを代弁してくれるような「意味」のある曲をその時々に演奏していたように思えます。

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お腹の中で音楽修業

1980年、僕は友達とちょうどギターを教え合い始めていた。僕は11才で、「ジュリア」や「セクシーセイディ」といったビートルズの曲にすごく入れ込んでいた。クールで、万華鏡のように刻々と変化するコード進行に。僕はその全てを解明しようとして完全にギター漬けになっていて、それが徐々に起こりかけていた頃、狂気の男がその道先案内人を撃ち殺した。最初、学校の子たちは、まるででっち上げのように反応した。当時、現実あったことのような気がしなくて、正直言って、ジョン・レノンが死んでしまったことをあまり信じれなかった。彼がいなくなったと思うには、彼の音楽はあまりに生命感に満ちていた。どういうわけか、今彼を思うとき、僕は大概「気難しくて怖い」時期、アビーロードの頃の様子や口調が目に浮かぶ。絶対に彼自身トリップしていたころだ。変化することを恐れない人たちを子供の頃に見るのはすごいことだ。僕は主にジョンの音楽的な面に惹かれていたけれど、ジョンの殺害は僕の心の中で、名声から彼の音楽を更に切り離すことになった。僕はどのように彼の曲を演奏するかを見出すことに立ち返り、まるで何も起こらなかったかのように振る舞った。僕の家族はビートルズファンで、僕が生まれる前に「サージェント・ペパーズ」をかけてくれたらしい。中学では、僕は「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」が多分一番のお気に入りだった。もちろん、今はもっと沢山の好きな曲があるけれど、その中の多くはやっぱりレノンの曲だ。例えば、


ファンをステージに招いてみんなで歌ったライブ
“I’m Only Sleeping”
「アイム・オンリー・スリーピング」
ここに挙げるほとんどの曲は、一人で放っていて欲しいとか、またはこの曲と同じくらい事を荒立てずに止めて欲しいというものだ。敵意をむき出しにせず、自分の内にこもる自由を表現したり、守ったりできるのは格好いい。この曲なら簡単なことのように思える。キックドラムで重たく前に押し出される代わりに、まるでその衝動が勢いで引き出されるような感じも好きだ。

“Tomorrow Never Knows”
「トゥモロー・ネバー・ノウズ」
一行目(“Turn off your mind, relax, and float downstream”/思考を停止して 力を抜いて 流れに身を任せて)が全てを表している。これもまた、彼は外的世界に対して戦わずに内面の状態をしっかり保つことについて表現しているみたいだ。僕にとって一番レノンのすごいところは、ひどく傷ついた幼少期や馬鹿げた名声にもかかわらず、前向きに自分のアイディンティティを維持できたところなんだ。一方で、


この頃ライブのリハーサルではビートルズのレパートリーばっかり演奏していたらしい


“Yer Blues”
「ヤー・ブルース」
時々は異常な精神状態に陥いることだってある。おそらくそれはカタルシス的だ。絶対に避けられない。残念なことに、たいてい人は自分自身が壊れていくのを隠したがるものだけど。だからこそ多分この曲みたいなのを聞くと安心できるんだ、少なくても僕にとっては。(“Feel so suicidal, even hate my rock’n’roll!” 死んでしまいたい気持ちなんだ 僕のロックンロールでさえ嫌いになった)こういった気持ちはどうしても頭をもたげてくるものだから、一度に全部爆発させたっていいはずだ。



よくカバーしていた曲。口笛だれかやってくれない?と聴衆に問いかけています。

“Cold Turkey” and “Jealous Guy”
「コールド・ターキー」、「ジェラス・ガイ」
この正直さはリスキーだけど、もちろん素晴らしいアイディアだ。感傷的なのかそれとも勇気があるのか。もしくはその両方だ。彼は一か八かの勝負に出て勝った。他の人だってこんなふうにいつも曲を書くべきだよ。レノンはどんなどんなことも歌に出来た。彼はまた、

“I Am the Walrus”
「アイ・アム・ザ・ウォーラス」
も書いた。陰鬱で、複雑で、おかしくて、人気があって、しかもロックしている。「グーグーグジョブ」のフレーズがある。歌詞があちこち散らばっている。想像力を掻き立ててくれるから僕はこんな歌が好きだ。(歌詞が)まとまってることはいいことに違いないけれど、面白い歌詞を判断する基準にはならない。音質的には、この歌はまさに収監所から逃げて来た人から生まれた感じがするんだ。

“Across the Universe”
「アクロス・ザ・ユニバース」
僕にとっては、彼の人生をとりまく文化や政治的解釈全体をアーチ状に覆ってしまうような流動的かつ音楽的な歌だ。本当にクールな歌は時として、夢を生み出し、現実と入れ替わる。おそらくもっと良くなるために。