Sunday 25 July 2021

エリオットとカバーソング (6) Blackbird, The Beatles

深淵なる親子の絆

エリオットの父親であるゲイリー・スミスのインタビューです。エリオットが14才の時に参加した地元のタレントショーについて語っています。

「タレントショーがあった大きな教会は人で一杯だった。色々な参加者がいてその一人はタップダンサーで、「ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ」(注:1940年代に作られた戦争プロパガンダ映画)を星条旗カラーのコスチュームを着て踊ったんだ。エリオットは「ブラックバード」を演奏して、僕はあっけにとられたよ、もしかしたらそう思っているのは僕だけかなと思ったんだけど、演奏が終わった後、静かな間があって、そのあと暖かい拍手が会場に広がったんだ。その時初めて、ああ、これが息子の行く道なのかなって」

彼はビールのボトルを置いた。

で、その話のオチっていうのが」

ーそのときにはエリオットはくすくす笑い出していたー

「全国大会への出場者は「ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ」のタップダンスを踊った人が選出された。それがそういうことの始まりで、」

彼は全部まで言わなかった、なぜなら親子は大声で馬鹿笑いしていたから、そして言わなくても明らかだった。それは、どうも賞とは無縁だということの始まりであり、だからといって「ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ」の路線で行きたいかというと、そうではないらしいということだ。

「エリオットはあちこちで方向転換して、袋小路に飛び込むかもしれない」

父は息子のギターをストロークしながら言った。

「でも彼は自分を貫くこと、高潔さを守ることを知っている。物静かだが、彼は芯から強い」         

Sunday 18 July 2021

エリオット・スミス プレイリスト(14) - I Second That Emotion - Smokey Robinson & The Miracles

僕は『Elliott Smith ( セルフタイトル)』のレコードを量産することに興味なんてない。もし『I Second That Emotion』みたいな普遍的で親しみやすい曲が書けたら本当に嬉しいよ。大博打を打つってことだよね、万人に受け入れられつつ人間的な何を創るっていうのは。

Elliott SmithHe's MrDyingly Sad, And You're Mystifyingly Glad By RJ Smith.より引用。

Wednesday 7 July 2021

さまよう過去の自分との対話 - Pitseleh

お久しぶりです。様々な諸事情からずっとお休みしていました。にもかかわらず、このブログを訪ねてくれる人がいたこと、本当に心からありがとうございます。エリオットの音楽はもちろんのこと、このブログのことについてもずっと考えは巡らしていて、また少し再開できるのは嬉しい限りです。

引き続きXOからの曲でPitselehを取り上げたいと思います。今回は、いつもと違って自分の過去の体験を踏まえてこの曲を味わってみたいと思います。解釈の一つと思って頂ければ幸いです。

Pitselehの意味

Pitselehはイディッシュ語で「little one(かわいいひと・子ども)」を意味し、恋人や子供に愛情をこめて呼ぶときに使われるそうです。他にも英語では、honey とか、sweetieとか色々ありますよね。ヒートマイザー時代のガールフレンド(JJゴンソン)の父親が彼女をそう呼んでいたらしく、エリオットもJJに対して使っていたそうです。というわけで、この曲はその彼女、もしくは他の過去の恋愛/友人関係にインスパイアされてできた曲、という見方ができます。自分を愛してくれる人達へ彼自身の正直な気持ちを伝えているようです。彼らが思う「本当の僕」に恋をしても、僕が知っている「本当の僕」は愛する人を傷つけ、苦しめることしかできない、という複雑な感情が音で伝わります。「But no one deserves it」のところで聞こえるピアノはこのアルバムのハイライトですよね。でもこの歌から聞こえてくるのはそれだけじゃない。

Pitselehは、誰への呼びかけ?

それでは、歌詞に出てくる「The silent kid is looking down the barrel」のsilent kid(kid ってけっこうエリオットの歌詞に出てきます)って誰なんだろう?って考えてみます。エリオット自身を投影しつつ、私には両親の離婚や不仲で翻弄され、本来の子供時代を送れず彷徨っているインナーチャイルドへの呼びかけのような気がします。その子供たちは「声」を持つことができなかった。Looking down the barrel ( of a gun) というのはイディオムで、銃口を覗き込んでいる=起こって欲しくない危険(ここではおそらく死の危険)が迫っていることを示唆するそうです。silent, noise, quietの対比が緊張感を高めています。そして現在の自分がインナーチャイルドに対して、足りないものを埋められるパズルのピースにはなれなかった怒りや自責の念といった感情を伝えています。

個人的な体験になるのですが、彼の音楽を聴くとき思い出す人がいます。とはいっても会ったこともないのですが。

今から約20年程前に、カナダに短期間のホームステイをしたことがあります。そこでお世話になったのは、あるご夫婦とその子供4人のうちの2人が一緒に住んでいた家で、あとの2人の子供は独立していました。ある日、独立して近所に住んでいた娘さんがやってきて、家族アルバムを見せてくれました。彼女が言うには、本当は5人兄弟だったらしく、家族写真には「3番目の兄」がいて、彼だけが違う母親から生まれてきた子どもだったのと。私が「今彼はどこに住んでるの」と聞いたら、彼女は「彼は随分前に自殺したのよ」と教えてくれました。

私はすごくショックでした。その家族は仲が良くて、週末には独立していた子ども2人もよく遊びに来ていたし、ご夫婦は面倒見の良い、とても優しい方たちだったからです。ただ、その自殺をした彼を思ったとき、それはどのような苦しみだったのだろうかー自分だけ母親が違うことで自分はその家族に完全に属していないのではないか、生まれてきたこと自体が間違いではなかったんだろうかという自分の存在意義への否定ーそのような疎外感について考えざるを得ませんでした。   

エリオットの歌詞によく出てくる「half」という言葉は、そのことを私に深く感じさせます。実母の家でも、実父の家でも、再婚後の家庭がそれぞれあったエリオットはやりにくかっただろうなと思います。

そしてPitselehを聴くとき、私はこの出会ったこともないカナダのステイ先の「3番目の兄」のことを思い出してしまうのです。

また、PitselehはCondor Ave. と並んでライブでの演奏をよく渋った曲で、2003年のHenry Fonda Theatreでは、観客からのリクエストにこうコメントしています。

Pitselehは、長くて退屈だ、、、僕的にはね。歌詞ありきの歌なんだよね。言葉に引っ張られる歌が間違ってるなんてことは全くないんだけど、でもPitselehは僕にはつまらないって感じなんだよ。 

たとえ彼がそう言ったとしても、Pitselehの歌詞ってどこを取り出してもすごく印象的で切なくて、深く胸に突き刺さる歌詞だと思います。


Pitseleh 

I’ll tell you why I don’t want to know where you are

I got a joke I’ve been dying to tell you

The silent kid is looking down the barrel
To make the noise that I kept so quiet
I kept it from you, pitseleh
I’m not what’s missing from your life now
I could never be the puzzle pieces
They say that god makes problems just to see what you can stand
Before you do as the devil pleases
And give up the thing you love
But no one deserves it
The first time I saw you, I knew it would never last
I’m not half what I wish I was
I’m so angry, I don’t think it’ll ever pass
And I was bad news for you, just because
I never meant to hurt you



僕がどうして君の居場所を知りたくないかっていうと
君に言いたくてたまらないジョークがあるからなんだ
もの言わぬ子供が音を出そうと銃身を覗き込んでる その音は僕がそっと取っておいたんだ
君から隠しておいたよ、pitseleh 

今となっては僕は君の人生に欠けているものなんかじゃない
パズルのピースにはなれやしなかった
神様は何に耐えられるかを見るためだけに試練を与えるという
悪魔がほくそ笑むようなことを君がやってしまうまえに
そして君が愛するものをあきらめるまえに

でもだれもそんな仕打ちに値しやしない

初めて君を見たとき 長くは続かないとわかっていた
僕は理想の僕の半分でさえない
ものすごく腹が立っているんだ 消え去ることなんてない
君にとって僕は悪い知らせだっただけで
君を傷つけるつもりなんてこれっぽっちもなかったんだ