Friday 19 July 2019

エリオット・スミス プレイリスト(9)Never My Love / The Association




「歌詞のところどころでは、僕が思いつくような言葉じゃない。僕が本当に歌いたい歌詞かというとそれはわからない。でも、本当に美しい歌だ。コード進行が本当に格好いい。」

メアリー・ルー・ロードとの対談インタビューより引用

"Bars"に込められた意味 - Between the Bars

2019年9月28日加筆・訂正しています。


Waltz #3っていうことは、#1よりも#2よりも後に作ったのかしら

『ビトウィーン・ザ・バーズ』はその歌詞と音楽性の完成度の高さから、エリオット・スミスの代表曲として、またアメリカのポピュラー音楽の歴史において(地味ながらも)重要な位置を占めているのではないでしょうか。

スミスがのちにメジャーレーベル契約を交わすことになる、Dreamworks RecordsのA&Rであったルーク・ウッド(元Beats Electronics社代表)は『ビトウィーン・ザ・バーズ』の歌詞についてこう説明しています。

"作詞家としてのエリオットの才能と彼のメタファー(比喩)の用い方がわかる一番顕著な例は、おそらく『ビトウィーン・ザ・バーズ』だろう。それは3層の構造になっているんだ。まずは恋愛についての歌、もしくはそうなりそうな関係といったところ、もし文字通りに解釈するならバーでの一夜を過ごすことについて。または刑務所の鉄格子のイメージ。そしてもちろん依存症について。次々に繰り出されるアイディアの明晰さにはあっと驚かされる。彼はメタファーをそのように用い、3分間の歌にして決して忘れられないものにした。"

今まで紹介してきた曲ももちろんそうなのですが、この曲はとりわけエリオット・スミスという人間をたった3分の短い歌に閉じ込め、曲を聞いた多くの人が様々に感じられるような広がりを持たせることに成功していると思います。

エリオットは、ビートルズの楽曲で意識と無意識を歌詞にした「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」や、母親のことを歌いつつ、実は当時の恋人であった、オノ・ヨーコについても暗に歌った「ジュリア」などの歌詞に多大に影響を受けていると思われますが、この『ビトウィーン・ザ・バーズ』では、ルーク・ウッドのコメントのように、

文字通りに聞けば、ある夜のバーでの恋人たちの会話であり、

②また比喩的には、お酒のボトルが擬人化して相手に言葉巧みに語りかけ、酒に溺れさせようとする依存の本質を描きだした歌であり、

③鉄格子のイメージとしては、当時のエリオット自身ー何らかの理由で囚われた身であることを感じている、もしくは人とのコミュニケーションを断絶しようとしている。

という層で成り立っていることがわかります。それをbetween the bars(酒場鉄格子、また音楽の小節も英語ではbarと呼ぶ)というタイトルに集約させています。

それだけではなく、この歌について考えるとき、私には人間の本質的なもの、支配する側と、される側との関係性についてを、酒のボトルに語らせている、そんな感じがするのです。

日本語に訳する上で難しいのは"People you’ve been before that you don’t want around anymore"のところですが、これは「君が過去に一緒にいた人々」ともとれるし、「かつての自分の姿」ー友人や大切な人が傍にいた自分、夢や野望のあった自分、また過ちを犯した自分などーを思い出したくない、といった意味合いにもなっていそうです。

例え英語であったとしても、エリオットの曲を聞くことで彼を本当に身近に感じれるのはまさにこの層の深さや、歌詞の密度の高さのおかげだと思います。夜中に一人でこの歌を聴いていると、エリオットがまるで自分を優しく自分をなぐさめてくれているような感じもするんですよね。

でも同時にどこか近寄れない謎めいた感じもある。不思議な歌だと思います。

また、エリオット自身は友人のミュージシャンMary Lou Lordとの対談で、Between the Barsを書き上げたときにことを話しています。曲を書いているときに自分自身が驚くことはあるの?という問いに対して、

"もし、そうでなければ、その曲は好きじゃないってことになる。「わぁ、これはすごい。」なんて自分に驚くってことじゃ決してないよ。でも「あれっ!?」みたいな感じに驚くことがあるんだ。そんなふうに『セイ・イエス』は5分で書いた。そのすぐあと『ビトウィーン・ザ・バーズ」も。二曲とも Xena: Warrior Princessのエピソードを音を消して見ているときに出来たんだ。曲を作るのにとても良い方法だよ。目は画面を追っていて忙しくて退屈しないし、手が何をしているかは見ない、すると自分自身に驚けるんだよ。手は知っているのに自分は知らないことで、自分の手にびっくりできるんだ。”

エリオットが書いたビートルズ(ジョン・レノン)に関しての文章についてはこちらもご覧ください。

Between the Bars
ビトウィーン・ザ・バーズ

Drink up, baby, stay up all night
The things you could do, you won’t but you might
The potential you’ll be that you’ll never see
The promises you’ll only make

飲み干しなよ、ベイビー、夜が明けるまで起きていよう
君がやれるかもしれないこと、するつもりもないのにするかもしれないこと
ありえそうにもない自分になれる可能性や
果たしそうもない約束なんかを

Drink up with me now and forget all about the pressure of days
Do what I say and I’ll make you okay and drive them away
The images stuck in your head

さあ、僕と一緒に飲もう 日々の重荷なんて全部忘れてしまえよ
僕の言う通りにするんだ そうすれば楽になる
君の頭から離れない幻影を 僕が追い払ってあげるから

People you’ve been before that you don’t want around anymore
That push and shove and won’t bend to your will
I’ll keep them still.

もう現れてほしくないかつての君の分身たちが
ひしめき合って 君の意志をくじこうとする
僕がそいつらをおとなしくさせてやるから

Drink up, baby, look at the stars, I’ll kiss you again
Between the bars where I’m seeing you
There with your hands in the air waiting to finally be caught

飲み干そうよ ベイビー 星を見上げて 
君にまたキスをするよ バーをはしごする途中
僕はそこで 君が両手を広げてつかまえてもらうのを
今かと待ち望んでいるのがわかるんだ

Drink up one more time and I’ll make you mine
Keep you apart deep in my heart separate from the rest
Where I like you the best
And keep the things you forgot

もう一杯飲み干そう そして君は僕のもの
僕の心の奥深く 他のものから切り離して 
君を匿ってあげる
そこにいる君が一番好きだ
そして君が忘れてしまったものを預かるよ

The people you’ve been before that you don’t want around anymore
That push and shove and won’t bend to your will
I’ll keep them still.

もう現れてほしくないかつての君の分身たちが
ひしめき合って 君の意志をくじこうとする
僕がそいつらを黙らせてやる