Sunday 28 April 2019

「Parade」の傍観者 Rose Parade


 
アルバムバージョンをヘッドホンで聞くのが好き

前述のBallad of Big Nothing
の歌詞にも出てくる「Parade」については、私が何かを語るよりも、エリオットのインタビューが結構残されているのでそちらを訳してみました。またエリオットの死後に、元ヒートマイザーのギタリストであり、大学時代からの親友だったニール・ガストがCMJに彼のお気に入りの曲として寄稿しているので、そちらも参考にしてみて下さい。彼がいかに裏表のないアーティストであったかが伝わってくるようです。

1. Interview by Matt Dornan, Comes with a smile より引用
ES:『ローズ・パレード』はポートランドのお祭りで、僕はちゃんとそれを正しく表現するべきだったんだけど、そのパレードについて表現したわけじゃないというのがポイントなんだ。独善的なパレードや自己満足な催しなんかへのたとえだったんだ。

2. Walkin’ after midnight from Jim より引用 
Either/Orで僕が気づいたこと、もしかしたら僕が数年LAに住んでいるからかもしれないからなんですけど、僕はここの学校に通っているから・・・このアルバムはLAについてのことが沢山あるような気がして、『Alameda』(LAにある通りの名前)、『Rose Parade』(パサディナで新年に行われるパレード)、『Angeles』などの曲とかなんですけど。
ES: Alamedaはポートランドにある通りだよ。
そうなんだ、それは知りませんでした。
ES: で、Rose Paradeは毎年ポートランドでやっているパレードのことなんだ。
え、そうなんですか。
ES: でも『ローズ・パレード』はそのパレードについてのことじゃないんだ。一般的なパレードについてのことだったんだ、パレードをしている人たちが他人もその自慢げな行進に加わるのを期待しているといったようなね。誰かがやる「俺たちって格好いいだろう?」といった態度のことだよ。それほどのものでもないのにパレードをしようとして、まんまと裏切られるんだよ。少しの間は可能かもしれない、でもやがてすべては間違った方向に行く。

あなたの歌詞の中の「Energizer Bunny (訳者注:電池で有名な米エナジャイザー社のウサギのマスコット)」に感嘆符(!)がついているのが好きなんです。面白いですよね。

ES: えーと、実際は「Duracell Bunny(訳者注:デュラセル社のウサギは存在しない)」なんだ。おかしなことに僕はそうやって曲を作ったんだ。それでそのまま録音した。すると誰かに、「おい、それはエナジャイザーバニーじゃないか」言われて、「あ、そうだ、デュラセルバニーじゃない」と。でも実はこっちのほうがもっと気に入っているんだ。
そうですね、ちょっとひねってる感じが。
ES: だってもっと怪しいかんじだし(笑)
なんか、おかしいですよね。全部の意味を僕はLAについてのことだと思っていたから。僕はあなたが・・・
ES: まあ、『Angeles』はそうだよ。
僕はUSC(南カリフォルニア大学)に通ってるんですが、トランペッターが酔っ払ってて簡単な部分さえ間違えてて気乗りのしない勝利の歌を一緒に歌わされて、というくだりが・・・
僕らの大学のマーチング・バンドのことを思い出すんですよ。地球上で一番素晴らしいブラスバンドとか言われてて、フリートウッド・マックとかと共演した。
ES: うん、『Tusk!』のことだよね。


3. Neil Gust, CMJ New Music Monthly 2007年5月号より


「エリオットは、彼が音楽業界を批判する曲を書いた時は、ネタが尽きてるからってことを良く言ってたんだ。でも”ローズ・パレード”では、彼はセレブリティたちのバカ騒ぎや、彼のまわりに作られていた過剰な盛り上がりへの彼の無関心さを、さらりとしなやかに捉えたと僕は思う。この曲のサウンドの軽やかさと、その上、勢い良く動き出し遠くに向かって歩きだすような、まるで彼は自分の重荷を残していくから良かったら拾ってくれないか、というような感じが僕は大好きなんだ。また、「お金みたいなキャンディーを振りまいて」、酔っ払ったトランペット奏者、気乗りのしない勝利の歌、一緒に行進しなきゃいけない羽目になったパフォーマーなど、調子の狂ったパレードをまるで映画のように眺めているというのも気に入っているんだ。」


Rose Parade 

You asked me to come down and watch the parade

To march down the street like the !Duracell! bunny
With a wink and a wave from the cavalcade
Throwing out candy that looks like money
To people passing by that all seem to be going the other way

君は僕にこっちに来てパレードを見ないかと誘う

!デュラセル!のウサギみたいに派手な行列からウインクをして手を降って
通りを行進しようと
お金みたいなキャンディーを通り過ぎる人々に放り投げる
みんな反対方向に向かっているみたいなのに

Said, “Won’t you follow me down to the Rose Parade?”
そして言う、「ローズ・パレードまで僕についてこないか?」と。

Tripped over a dog in a choke-chain collar
People were shouting and pushing and saying
And I traded a smoke for a food stamp dollar
Ridiculous marching band started playing
Got me singing along with some half-hearted victory song
鎖の首輪で繋がれた犬につまづいて
人々は叫んで、押し合って、喋っている
僕はたばこをフードスタンプ券と交換した
馬鹿げたマーチングバンドが演奏を始めた
気乗りのしない勝利の歌を一緒に歌わされて

Won’t you follow me down to the Rose Parade?
Won’t you follow me down to the Rose Parade?
Won’t you follow me down to the Rose Parade?
ローズ・パレードまで僕についてこないか?
ローズ・パレードまで僕についてこないか?
ローズ・パレードまで僕についてこないか?

The trumpeter’s obviously been drinking
‘Cause he’s fucking up even the simplest lines
You say it’s a sight that’s quite worth seeing
It’s just that everyone’s interest is stronger than mine
When they clean the street, I’ll be the only shit that’s left behind
トランペッターは明らかに飲んだくれてる
簡単なメロディのところでさえ音を外してる
君はなかなか見る価値がある光景だと言う
ただみんな僕より関心があるというだけだ
通りがきれいになったとき、僕は一人取り残されたクソだろう

So won't you follow me down to the Rose Parade?
さあ、ローズ・パレードまで僕についてこないか?

Saturday 27 April 2019

哲学なのかロックなのか?Ballad of Big Nothing


伝説のNYの1999年大晦日ライブ。見てみたかったなぁ。

1997年5月6日に放送されたLAのラジオ局KCRWのインタビューで、エリオットはアルバムタイトル『Either/Or』の意味について、「キルケゴールの本の名前からとったふざけたタイトルだよ。ロックンロールのアルバムなのにね。」という(インタビュアーに対してやる気なさそうな)発言をしているのですが、このBallad of Big Nothing、一見「無」という哲学的なテーマを含むタイトルでありつつ、私には「ロックについて歌った曲」にも聞こえるんです。というわけで、今回2つの観点から考えてみました。もちろん、

1. 哲学的Big Nothing
ニーチェ的ニヒリズムやサルトルの「存在と無」のような哲学的思想が浮かび上がってきます。人間は原則、何を思っても行動してもいい自由があるものの、いつでもやりたいことをやればいい 好きなようにすればいい 誰も止めたりしない」実際にすべて行動に起こせば、様々な制約や責任、人間関係のもつれがつきまとう。罵って傷つけてばかり 君は毎晩眠らずに 毎日気が沈む」 そしてその渦中で語り手は言う、「意味などない」と。「Big(大きな) Nothing(無)」と歌うことで、その虚無を受け入れて何かを作り出そうというようなポジティブなエネルギーを感じることもできれば、人によっては悲観的な否定と聞こえるかもしれません。

2. ロック的Big Nothing
まず、バラッドとは物語や寓意を含んでおり、語るような口調でリフレインが多い形式の歌のことで、この歌も例に漏れません。語り手は、一番目ではいつも何かを言わずにおれない口汚くて無力な小さいやつ」と歌い、二番目では運び出されるのをただ待っている 少しの時間しか残されていない疲れた男」と対比させています。ここで面白いのは「キャンディー」のメタファーで、一番目のキャンディーは「聴衆を喜ばせるような音楽やパフォーマンス(throwing candy out to the crowd)」であったのが、二番目のキャンディーgetting in to the back of a car for candy from some stranger)は今度は自分を喜ばせるもの、たとえば甘言や名声といったものにすり替っているようです。もちろんドラッグでもいいかもしれません。キャンディーって、甘くて、子供っぽくて、体に悪そうなものを連想させます。新しい音楽が現れては、それが疲弊してまた新しいものと入れ替わるロックミュージシャンの人生の破局のようなものを、エリオット自身も含め「Big Nothing」と歌っているような気がします。

Benjamin Nugent氏による、エリオットの伝記『Elliott Smith and the Big Nothing』では、この曲について、「It is an anti-anthem or ironic anthem (アンチアンセムまたは皮肉ったアンセム)」だと書いています。確かに、コーラスの”Oh Yeah”がちょっと嫌味っぽいと思いませんか?

あと、この曲の歌詞では"ing"が沢山使われているんですよね。エリオットの当時の「今起きていること」が現在形で描かれていて、まるで写真を見ているときのような同時性のようなものを持たせているようです。

Ballad of Big Nothing

throwing candy out to the crowd

dragging down the main
the helpless little thing with the dirty mouth who’s always got something
to say you’re sitting at home now waiting for your brother to call
i saw him down at the alley
having had enough of it all
said you can do what you want to whenever you want to
you can do what you want to there’s no one to stop you
all spit and spite you’re up all night and down every day
a tired man with only hours to go just waiting to be taken away
getting in to the back of a car for candy from some stranger
watching the parade with pinpoint eyes full of smoldering anger
you can do what you want to whenever you want to
you can do what you want to there’s no one to stop you
now you can do what you want to whenever you want to
do what you want to whenever you want to
do what you want to whenever you want to though it doesn’t mean a thing
big nothing

バラッド オブ  ビッグナッシング

人混みにキャンディーを放り投げ
本質を弱らせる
いつも何かを言わずにおれない口汚くて無力な小さいやつ
君は家でじっとして兄弟が電話をかけてくるのを待っている
僕は君が路地を歩いているのを見た
もうたくさんだというふうに
そして言った いつでもやりたいことをやるんだ
好きなようにやればいい 誰も止めなんかしない
罵って傷つけてばかり 君は毎晩眠らずに 毎日気が沈む
運び出されるのをただ待っている 少しの時間しか残されていない疲れた男
見知らぬ人からのキャンディーのために車の後ろに乗り込み
押し殺した怒りで溢れた小さな瞳孔でパレードを眺める
いつでもやりたいことをやればいい
好きなようにやったらいいさ 誰も止めなんかしない

いつでもやりたいことをやればいい
好きなようにやればいい 誰も止めなんかしない
いつでもやりたいことをやるんだ 何の意味もないけれど 
全くの無なんだけど