Friday 16 November 2018

チャーリー三部作

エリオットのダークなホラーソングを。

エリオットの曲の中で「チャーリー(エリオットの継父)」という名前が登場するのは少なくとも3回あるのですが、今回はそれを和訳してみました。1曲目の「No Confidence Man」は友人のピート・クレブスとのスプリット盤シングルとして1994年にリリースされています。二曲目「Some song」も同じ頃の作品で、「Needle in the Hay」のシングル盤に収録されています。彼の初期のライブのセットリストを見ると、かなりの割合で演奏されています。3曲目は「Flowers for Charlie」で、1999年のライブ音源のみ残っている模様。

エリオットのインタビューで曲がパーソナルに聞こえることへの返答として彼はこう答えています。



「ただ曲がそうなったっていうだけのことだよ。パーソナルに聞こえると思う・・・どうかな。もちろん聞こえるはずだ。自分がどう感じるか、悪魔に向かって叫びたいかどうか、自分が何をしたいのか、曲を作るっていうのはそういうことが聞こえるってことだから。」

「易きに流れる演奏をするのは一番ありふれた失敗の仕方だ。死ぬのもそうだ。ドラッグとか、酒とかそういったもので自分の感情を無くしてしまうのも。」

「チャーリー」は確かに継父の名前ですが、私には彼のことを直接歌ったようには聞こえず、エリオットの内面に棲む悪魔的な存在(鬱の元凶)につけた名前で、これらの曲はその存在とのやりとりを歌ったものじゃないかと思うのです。
 
Some songではジョン・ゲイシーという70年代にアメリカを震撼させたシリアルキラーの名前を引用しています。調べてみると、彼の犯行には幼い頃の父親からの虐待が大きく関与しているのですが、彼は逮捕された後に不気味なピエロの絵を沢山描いています。エリオットが自分の曲と重ね合わせているような感じを受けます。余談ですが、スフィアン・スティーブンスもジョン・ゲイシーについて歌っているんですよね。

Flowers for Charlieでは、小説「アルジャーノンに花束を」のタイトルが思い出されます。この曲ではエリオットはもう悪魔の思うツボというところまで追い込まれているように感じます。また、継父チャーリーへの(和解の)メッセージ・ソングとしても聞こえます。

いずれにしてもこれらの曲はエリオット本人にしかわからない謎に包まれているようです。

ただ、彼はずっと見えない何かと闘っていたことは間違いないと感じずにはいられません。



No Confidence Man(1994)
ノー コンフィデンス マン

Charlie got a band in his hand
A rubber loop
Says, I’m the man you really want
So just act natural
Don’t try to tell me your bullshit scheme
Because I have no idea what you mean
No idea
I’m just trying to sleep
I’ve heard quite enough
Just to listen is really tough
Because you’re on it all the time
Hearing the bells, it’s 9 a.m.
You better wake up your friend
Before he won’t wake up anymore
Because I got to split, I’m late to leave
He gave me nothing but grief
And some bullshit story only I would believe
I’ve heard quite enough
I heard quite enough
You’re on it all the time
You’re on it all the time
You’re on it all the time
And you’re full of it all the time

チャーリーは手にバンドを持っている
ゴムの輪を
曰く、俺がお前が本当に求めている男だ
だから普通にふるまえと
お前の馬鹿げた案を指図するんじゃねえよ
なぜならお前の言いたいことが全くわからねえ
全くだ
僕はただ寝ようとしていただけだ
もう十分聞いてやった
ただ聞くだけは本当につらいんだ
なぜならお前はいつも動き続けているから
目覚しのベルが聞こえる、朝の9時だ
あいつがもう目覚めなくなる前に
君の友達を起こしたほうがいいよ
僕は離れなきゃいけない、遅れているんだ
あいつは僕に苦痛しか与えない
あとは僕だけしか信じない馬鹿げた話と
もう十分聞いてやった
十分聞いたんだ
お前はいつも動き続けている
お前はいつも動き続けている
お前はいつも動き続けている
そしてデタラメばかりを言ってやがる


Some song (1994)
サム ソング

It’s a junkie dream makes you so uptight
Yeah, it’s Halloween tonight and every night
Hear you scratch your skin
Your sandpaper throat
You’re a symphony, man, with one fucking note
Charlie* beat you up week after week
And w
hen you grow up you’re going to be a freak

Want a violent girl who’s not scared of anything
Help me kill my time
Because I’ll never be fine
Help me kill my time
You went down to look at old Dallas town
Where you must be sick just to hang around
Seen it on TV, how to kill your man
Then like Gacy’s scene a canvas in your hand
You better call your mom, she’s out looking for you
In the jail and the army and the hospital too
But those people there couldn’t do anything for you
Help me kill my time
Because I’ll never be fine
Help me kill my time
Help me kill my time
Help me kill my time
Because I’ll never be fine
Help me kill my time

お前が苛まれるジャンキーの夢
そうさ、今夜、毎夜ハロウィンだ
お前が肌を引っ掻くのが聞こえる
ざらざらの喉
お前は一本調子の交響曲
チャーリーは来る日も来る日もお前を打ちのめす
お前が大人になる頃には おかしな奴になるだろう
何ひとつ恐れない凶暴な女を求めて

僕の時間潰しを手伝ってくれよ
僕が良くなることはないから
僕の時間潰しを手伝ってくれ

お前はダラスの旧市街を見に行った
そこはうろつくだけで気が滅入るに違いない
テレビでやっているのを見た、どうやって目当ての男を殺すのか
ゲイシーの現場みたいな、お前が手にしているキャンバス
お前の母親を呼んだほうがいい お前のことを探しているよ
刑務所でも、軍隊でも、病院でもだ
でもそこの奴らはお前には何一つできないんだ

僕の時間潰しを手伝ってくれよ
僕が良くなることはないから
僕の時間潰しを手伝ってくれ
僕の時間潰しを手伝ってくれ
僕の時間潰しを手伝ってくれ
僕が良くなることはないから
僕の時間潰しを手伝ってくれ 

*の部分はHow they beat up... と歌われることもあったようです。



Flowers for Charlie(1999)
チャーリーに花束を

Flowers for Charlie, you know
I’m not a good G.I. Joe
Because I always aim low
And I won’t fight you
Popularity war
I’d be a clown in the corp
Taking over the store
It’s a cop out
I don’t want to win
New friends anymore
There’s a world within
But I can’t call out
Kiss me quickly
I’m in a hurry
And I’ve got worry enough
Trying to stay around
Brought you a flower 
From the other side
It’s a free world
You don’t have to hide

チャーリーに花束を、知ってるだろう
僕はデキるG.I.ジョーじゃない
僕はいつだって志が低いし
お前とは戦わない
高評価争い
僕は店を乗っ取る部隊の中の道化役
手を引くよ
勝ちたくなんかない
新しい友達ももういらない
内なる世界がある
でも僕はそれを呼び出せないんだ
早くキスしてよ
急いでいるんだ
ここにとどまろうとする
苦労は十分やった
向こう側から
お前に花を持ってきたよ
自由な世界だ
隠れる必要なんてないさ


Sunday 4 November 2018

エリオット・スミス プレイリスト(3)What Is Life - George Harrison



解散後のビートルズのソロ作品の中で好きな曲の一つとして、ジョージ・ハリスンの「What is life」を挙げています。「特にコードと詞が好きだ。曲のメロディ自体がクールに回転していくんだ。」

coming up roses, written by erik himmelsbach , taken from revolver first issueより参照

Saturday 3 November 2018

Needle in the Hay 「依存」についてのストーリーテリング



Needle in the Hay
ニードル イン ザ ヘイ

1.
Your hand on his arm
The hay stack charm around your neck
Strung out and thin
Calling some friend trying to cash some check
He’s acting dumb
That’s what you’ve come to expect

お前は彼の腕に手をやる
お前の首には干し草の形のペンダント
ヤク漬けでやせ細っている
友達に電話をして小切手をカネにしようとする
彼はわかってないようなフリ
それはお前がまさに見通していたこと

Needle in the hay
Needle in the hay
Needle in the hay
Needle in the hay

干し草の中の針

2.
He’s wearing your clothes
Head down to toes, a reaction to you
You say you know what he did 
But you idiot kid
You don’t have a clue
Sometimes they just get caught in the eye
You’re pulling him through

彼はお前の服をまとって
頭の先からつま先までお前に呼応する
お前はあいつがやったことだというが
バカなガキだ 
お前に心当たりがないとは
時々目に留まったに過ぎないと
お前は彼をよくしてやろうとしているんだ

Needle in the hay
Needle in the hay
Needle in the hay
Needle in the hay
干し草の中の針

3.
Now on the bus
Nearly touching this dirty retreat
Falling out 6th and powell a dead sweat in my teeth
Gonna walk walk walk
Four more blocks plus one in my brain
Down downstairs to the man
He’s gonna make it all ok

さあ、バスに乗ったら
もうすぐ薄汚いリトリートに手が届く
6番とパウエル通りの境で降りたら僕の口の中には生気のない唾液が
歩く、歩く、歩く
あと4ブロックと僕の頭のなかでもう1ブロック
あの男のところまで階段を降りるんだ
彼が全部なんとかしてくれる

4.
I can’t beat myself
I can’t beat myself
I don’t want to talk
I’m taking the cure so can be quiet whenever want
So leave me alone
You ought to be proud that I’m getting good marks

僕は自分を打ち負かせられない
僕は自分を打ち負かせられない
僕は話をしたくない
僕は手を打ってもらってる だからいつだって望めば静かでいられる
だから僕を放っておいてくれ
僕に立派な跡が残っていくのがお前にはたまらないはず

Needle in the hay
Needle in the hay
Needle in the hay
Needle in the hay

干し草の中の針


ドラッグじゃなくて、「依存」がテーマ

ご存知の通り、セルフタイトルアルバムに収められている1曲目「Needle in the Hay(干し草の中の針)」は彼の曲の中でもとりわけ陰鬱なテーマについて歌われたものです。自分も訳していてしんどかったのですが、エリオットはこの曲でドラッグそのものではなく、下記のインタビューにもある通り、ドラッグも含めた「依存(とくに人間関係についての依存)」について書かれた曲だと幾度となく語っています。それでも英語圏でも未だにきちんと理解されていないんじゃあないかと思いますが、彼自身が残したヒントとこの曲を解釈した人たちの言葉を手がかりに、私なりにこの曲の意味を探ってみました。

「前作(Elliott Smith /セルフタイトル)はドラッグだけのことについてじゃないんだ。ドラッグは依存や自己不足感を表現するための手段だった。恋愛についてでもよかったけれど、それでは僕っぽくなかったから。前のアルバムのインタビューでは、みんな歌をすごく表面的に解釈したんだ。どうしてそんなに沢山ヘロインについての曲があるかを知りたがった。僕はただ曲を作ろうとしているだけでありのままの自分でいることを楽しんでいるんだ。(written by john chandler & w. scott wagner, taken from the rocket 4.9.97)

今ある現実を変えようとしてどうして人はドラッグに手を出すのかということに興味はつきないんだ。(he twisted circle written by nigel williamson, taken from uncut)

こちらのインタビュー翻訳も興味深いです。
https://rockinon.com/news/detail/117425

依存について書かれた小説や映画は沢山ありますが、私は自らの体験を元に書かれたドストエフスキーの「賭博者」が思い浮かびます。彼は賭博を通して、人間の狂気やロシア人気質を描こうとしたわけですが、エリオットは当時彼の住んでいたポートランド(パシフィック・ノースウェスト)にどれだけドラッグが街中を覆っていたかを目の当たりにして、自分にも依存傾向のあることを認めつつも、依存の根源みたいなものを冷静に、客観的に見つめたかったんじゃないかと思います。エリオットの父親は精神科医なのでその手の情報にも明るかったのかもしれません。

肝心の歌詞について気づいたことを書いてみます。曲の解釈の一つにすぎないことをお忘れなく!

歌詞の中の(ややこしい)人称の変化

まずこの歌詞に出てくる登場人物ははHe(彼)you(お前)、I(僕)そして麻薬のディーラーと思われる男(Man)。彼とお前と僕は全て同一人物かもしれません。人称を巧みに操ることによって異なる自我のせめぎ合いを表現しています。

1.
"Your hand on his arm" のところの(Your hand)の正体は「彼」に覆いかぶさってこようとする第二の歪んだ自我、ドッペルゲンガー的存在。首に干し草の形をしたロケットペンダントをかけている。「お前(歪んた第二の自我)」は「彼(空虚な、内なる自分)」が何を求めているか見抜いている。

2.
「彼」は「お前」を身に被ることで(He’s wearing your clothes)「彼(inner)」の存在より「お前(outer)」が優勢になる。茶色の部分は「お前(outer)」が「彼(inner)」に語りかけているように思われる。彼の状況をよくしてやろうとする。この「お前」には破壊的なイメージがつきまとう(You, idiot kid, you don't have a clue.)。

3.
彼とお前は「一体」となり、バスに乗って「薄汚いリトリート」へと向かう。ここからの人称は「I(僕)」となる。”Gonna Walk, Walk, Walk"や”Down downstairs to the man”はヴェルヴェット・アンダーグラウンドの「Run Run Run」や「I am waiting for the man」のドラッグにまつわる歌詞の引用が思い浮かぶ。

4.
一体となってしまった「you」だけを追い出すことができず、ここではドラッグをすることで静まってもらい、「彼」の元から離れていってくれという。だが「僕」の体は確実に蝕まれていく。

「Needle in the Hay / 干し草の中の針」の意味とは?

干し草の山の中から針を探すことが極めて難しいということから至難の業、無駄骨を折るという意味を表すイディオムです。また通常干し草の形をしたロケットペンダントの中には恋人同士が(悩ましく!)抱き合ったりする姿が刻まれています。「you」がかけているロケットペンダントの中には「he」がまさに求めているもの(でも決して手に入らないもの)が入っているのではないでしょうか。また、この曲では中毒者が注射針を求めてさまようイメージも湧きます。均質なものの中の(干し草)異質なもの(針)(=ナレーター自身の疎外感)というものも表している気がします。

エリオットが描いた「依存」とは?

内なる自分が、自分に足りないもの、自分を満たすものを探している。その足りないものを埋めようとして第二の歪んだ自我がそれを満たそうとするが、その際に、何か他のもの(アルコール、薬物、恋愛、人間関係など)に自分を委ねたときそれが達成されたような気分になる。しかしそれでは内なる自分を本当に満たすことは不可能(=干し草の中の針)であり、やがて自己を滅ぼしていくことになる。どんな人にも内なる自分に足りないものを抱えているはずで、私たちは大なり小なり何かに依存しているのかもしれない。普遍的で哲学的なテーマだと思います。ダークなトーンの中に一語、一語選び抜いた当時のエリオットのポジティブなエネルギーを感じませんか?そしてもちろんこの曲から想起されるものはもっともっとほかにもあると思います。