Wednesday 23 January 2019

月の三部作(Coming Up Roses, Satellite, St Ides Heaven)

Either/Orのアルバムについて色々考えているのですが、まだもう少しセルフタイトルアルバムに散りばめられている「月」のイメージについて掘り下げてみようと思います。

まず月についてエリオットが語っているインタビューを引用します


インタビュアー:もしかしたら分析しすぎなのかもしれないけど、結構な曲の歌詞の中で月が出てくるのに気づいたんだ。「Coming Up Roses」でしょ。

エリオット:そうだね。
インタビュアー:「St Ides Heaven」に、思い出せないけどもう一曲(訳者注:Satellite)、それに「Division Day」。月のイメージやその象徴は君にとって個人的な意味があるの?
エリオット:長い期間、僕は夜歩いてるときに曲を思いついたんだ、ただ夜歩くのが好きだったんだ。だから月は沢山見たよ。月は本当に使い古されたイメージだけど、使い古されたイメージを使う手はいつだってある。そういったイメージを新しくするとか、少なくともやってみようと。上手くいったとは言えないけど・・・でも最近もうあんまり月は見てないんだ。NYに住んでいるから。

と、何一つ彼ははっきり説明していないわけですが、彼にとっての「月」を表現しようと意図していたことは間違いありません。

上記にもある通り、セルフタイトルアルバムの中の歌詞に「Moon」の単語が出てくるのは3曲(Coming Up Roses, Satellite, St Ides Heaven)ですが、そのいずれも難解で、不明瞭な部分が多いと思います。エリオットがどのような「月」のイメージにインスパイアされたかを知ることは出来ませんが、私はテレヴィジョンの「Marquee Moon」や、ルー・リードの「Satellite of Love」には少なくとも影響されたんじゃないかと思います。

月がテーマの歌って数えきれない程あって、名曲も沢山ありますよね。ボブ・ディランがパーソナリティのラジオ番組テーマタイムラジオ・アワー』でも月をテーマにした曲が特集されていてこれも興味深いのですが、エリオットが歌ったカバーでは、ニール・ヤングの「Harvest Moon」、月と関連づけていいかはちょっと苦しいところですが、ボブ・ディランの「Moonshiner」(密造酒屋、夜に非合法の商売をする人を指す俗語で、トラディショナルソングをカバーした曲)があります。

またもや誤訳やひとりよがり解釈を承知で!エリオットの歌が決して1つの意味に限定されたものでないことをお忘れなく。


サングラスかけたエリオット。こけるシーンが見どころ。

Coming Up Roses
カミング・アップ・ローゼズ

I’m a junkyard full of false starts
And I don’t need your permission
To bury my love under this bare light bulb
The moon is a sickle cell
It’ll kill you in time
You cold white brother riding your blood
Like spun glass in sore eyes
While the moon does it’s division you’re buried below
And you’re coming up roses everywhere you go
Red roses follow
僕は間違いだらけの廃品置き場
君の許可はいらない
この裸電球の下に僕の愛を埋めてしまうのに
月は鎌状赤血球
やがて君を殺してしまう
君の血に乗りかかる冷たくて白い兄弟
ひりひりとした目の中入った糸ガラスみたいに
月が分かれている間、君は下に埋められる
そしてバラがどこに行っても咲いている
赤いバラが

The things that you tell yourself
They’ll kill you in time
You cold white brother alive in your blood
Spinning in the night sky
While the moon does it’s division you’re buried below
And you’re coming up roses everywhere you go
Red roses
君が自分に話していることは
やがて君を殺してしまうだろう
君の血には冷たい白い兄弟が生きている
夜の空に回転して
月が分かれている間、君は下に埋められる
そしてバラがどこに行っても咲いている
赤いバラが

So you got in a kind of trouble that nobody knows
And you’re coming up roses everywhere you go
Red roses
誰も知らない厄介事に君は巻き込まれている
そしてバラがどこに行っても咲いている
赤いバラが


シュールなイメージが次々と現れるこの曲では、沢山の言葉遊び、ダブルミーニングに彩られているため、和訳って可能なのかわかりません。

・false starts とは、本来はフライングや、言い掛けたことが間違っていると気づくことの意。失敗や後悔でいっぱいのというような意味にとれる。

・this bare light bulb(裸電球) はCondor Aveにも出てきますが、自己破壊的な光のイメージ。限りある生命というふうにもとれるかも。

・moon is a sickle cellというフレーズに出てくる鎌状赤血球とは、鎌状赤血球貧血症に見られる、血液の形状が三日月の形になる状態

・You cold white brother riding your bloodはドラッグのシューティングのイメージと重なる。訳者には鬱病の症状(というか気分の落ち込み)が始まった時を表しているようにも思える。

coming up rosesは上手くいっているという意味を表す慣用句だが、もう一つの似たような慣用句で意味が全く異なるpushing up daisies(死んで埋められて)と関連しているかもしれない。

他のサイトで歌詞の意味や解釈を探してみたりするのですが、この詩は意味よりかは歌詞の持つヴィジュアルなイメージのほうが大事なのかもしれません。語り手は死、病気、依存、人間関係といったトラブルに取り巻かれている。語り手の生のエネルギーや気分の変化を月の満ち欠けに例え、月の形が欠けているときは、自分はまるで地面に埋められているようだと。また、それ故に彼は人を愛することへの自信を失っていたり、そのトラブルを他人に打ち明けることが出来ない。にもかかわらず、万事上手く行っている(振り)をして隠している。どんな人であっても、何か心のトラブルや痛みを隠して何の問題もないように振るまっている、そんな歌なのかもしれません。


個人的に好きな曲です

Satellite 
サテライト

While the hands are pointing up midnight
You’re a question mark coming after people you watched collide
You can ask what you want to the satellite
‘Cause the names you drop put ice in my veins
And for all you know you’re the only one who finds it strange
When they call it a lover’s moon
The satellite
Cos it acts just like lovers do
The satellite
A burned out world you know
Staying up all night
The satellite

真夜中、上を指さすとき
衝突した人々を見た後に、君は首をかしげる
サテライトになら君は聞きたいことを聞けるんだ
何故なら君が口にした名前は僕を冷血にさせるから
多分、君だけが不思議に思っている
恋人の月 と人が呼ぶ時
サテライト
まるで恋人達がすることと同じようだから
サテライト
焼けつくされた世界だろう
一晩中起きている
サテライト

地球に対しての衛星(サテライト)である「月」について歌っている。星とその衛星の関係はまるで恋人同士の様に言われるが、語り手にとっては疑がわしい。月は通常、夢やロマンスを象徴していることが多いが、この曲では月は冷やかな傍観者(=語り手?)のようであって(A burned out world、Staying up all night)地球から孤立した寂しい古の光(Satellite のサビの部分がSad Old Lightと聞こえませんか?)が語り手の疎外感を表しているよう。サウンド的にはものすごくロマンティックだと思うので、恋人に対して自分自身をさらけ出しているような気もします。


きれいな映像で手元がよく見えます。

St Ides Heaven 
セント・アイデス・ヘヴン
Everything is exactly right
When I walk around here drunk every night
With an open container from 7-11
In St. Ides heaven
全てがまさにうってつけ
セブンイレブンから栓を抜いた瓶を手に
僕が毎夜このあたりをうろつく頃
セントアイデスで天国の心地

I’ve been out haunting the neighborhood

And everybody can see I’m no good
When I’m walking out between parked cars
With my head full of stars
僕はこの界隈をたむろしている
みんなには僕がろくな奴じゃないと見える
路駐した車の隙間から歩き出すとき
頭の中には満点の星

High on amphetamines

The moon is a light bulb breaking
It’ll go around with anyone
But it won’t come down for anyone
アンフェタミンでハイになって
月は壊れかけの電球
誰とだって回るけれど
誰かのために降りたりはしない

You think you know what brings me down

That I want those things you could never allow
You see me smiling you think it’s a frown
Turned upside down
君は僕がどうすれば落ち込むかわかっていると思ってる
僕がしたくても君がさせてくれないこと
僕が笑っていると見えて、顔をしかめてると思っている
あべこべなのに

‘Cause everyone is a fucking pro

And they all got answers from trouble they’ve known
And they all got to say what you should and shouldn’t do
Though they don’t have a clue
なぜなら皆たいそうなプロばかりなんだ
自分たちが知ってる厄介事の答えがわかっているから
それをやれ、あれをやるなと君に言いたがる
少しもわかっちゃいないくせに

High on amphetamines
The moon is a light bulb breaking
It’ll go around with anyone
But it won’t come down for anyone
And I won’t come down for anyone
アンフェタミンでハイになって
月は壊れかけの電球
誰とだって回るけれど
誰かのために降りてくることはない

そして僕は誰のためにも降りることはない


月は壊れかけの電球(The is a light bulb breaking)のところでまたもや、電球のイメージが出てきます。パンクなのか頑固者の歌詞なのか・・・壊れかけの電球というのは、語り手の限りある若さや命といったものを表しているのでは?High on amphetamineではドラッグという直接的な単語を使ってはいるものの、中毒と言えるほどのめり込んでしまうもの(例:恋愛や音楽、もちろんアルコールやドラッグを含め)でハイになっている状態といったほうがしっくりくると思います。他人にどう思われようと、自分は他人の人生を生きるのはごめんだというようなポジティブなエネルギーに溢れているような気がします。少なくとも私には。

No comments:

Post a Comment