Monday 8 October 2018

Condor Ave. 短編映画のようなエリオット・スミスの歌詞


↑アンプの上に座って演奏する若き日のエリオット君。椅子、なかったん?


エリオット・スミスの音楽に興味を持った人は、彼の歌詞についてもきっと深く知りたいと思うようになるのではないでしょうか?彼の音楽が未だ多くの人に聞き継がれているのは、彼独特の歌詞の世界によるところが多いと思います。

ささやくような柔かなボーカルに繊細なアコースティック・ギターの演奏、耳に残る美しいメロディ、なのに歌詞は生々しく、陰鬱、哲学的で謎めいている。万華鏡のように聞く人によって異なる歌詞の変幻性。彼は溢れんばかりの自分の言葉を沢山持っていたし、それを1曲の歌の中に緻密に、かつ自然に凝縮させる事を知っていました。

ソロ・デビューアルバムの「Roman Candle」の中の”Condor Ave” はエリオット・スミスが17歳の時に作った古い曲だそうです。大学時代のバンド、A Murder of Crowsで初期の録音が残されています。「Roman Candle」バージョンになるまでに何度も修正されているようで、これ以降のアルバムに見られるエリオットの歌詞の特徴が現れつつも、まだ完全には「エリオット節」になっていない青さのようなものがあるかもしれません。彼曰く、「この歌は言葉が多すぎる」らしく、ライブでリクエストされても演奏をよく渋っていたようです。

音楽で織りなす短編映画?

まず気がつくのは、この歌がまるでいくつかの短いシークエンスをつないだ物語であること。登場人物は、She(彼女)、I(僕)、Drunk man(酔っぱらい)、Cops(警官)でしょうか。場面はコンドルアベニュー(ポートランドにも存在するがエリオットの描く架空の通り?)ストーリーは、僕との口論の後、車に乗って去ってしまった彼女が、移動遊園地の入口にいた酒酔いの男をはねる。僕は彼女が月に向かって車を走らせる姿を見たときに誰か(おそらく彼女自身?)がコンドル通りであった事故で燃え尽きてしまう。現実と幻想が入り混じったようなこの歌は、自分と彼女がわかりあえなかった事が招いた悲劇を描いているのではないでしょうか。もしくは彼女との関係の終わりが、彼女と酒酔いの男の「死」として歌中で示唆されているのかもしれません。(他にも「Happiness」の冒頭の歌詞は全く同じような交通事故による死の場面が出てきます)もちろん、どのように歌詞を受け取るかは全くの自由で、歌詞をある一定の意味に押し込め、聞く人を誘導するのはエリオット自身が一番嫌ったことでもあります。


イメージがわく音や光が歌詞に散りばめられている

まず、聞く人たちの想像力を掻き立ててくれます。

音(Voice Dry and Hoarse, the chimes, threw the screen door like a bastard,  the sound of the car driving off/A sick shouting)

静けさ(rhythmic quietude, a whisper, blowing smoke)

暗闇の中の光(Lights burning, fairground's lit, light bulb, the moon, the headlights burning, someone's burning on Condor Ave.)

シンボルや比喩で意味を伝える

エリオットが操るいくつかの言葉には、その言葉どおりの意味に加えて、何かしら比喩的なものががっつり盛り込まれているんですよね。特に印象的なのは、

They Never Get Uptight When A Moth Gets Crushed
Unless A Light Bulb Really Loved Him Very Much
奴らは蛾が電球に寄って死ぬくらいではどうってことないんだ
電球が蛾を本当に愛さない限りは

蛾は電球に寄せ付けられるようにして自滅してしまうもの。愛されないものに近づいて傷ついてしまう。どこか自己破壊的ですよね。またこの「蛾と電球」の関係は「彼女の乗ったOldsmobileと月」のイメージとオーバーラップします。

また、謎の酒酔いの描写は、どこか<僕>を投影しているようでもあります。帽子を目深にかぶり、酒瓶を口にくわえたまま、身動きすることもできない。死ぬまで無口で自分をさらけだせなかった不器用な男を思わせます。

Got His Hat Tipped Bottle Back In Between His Teeth
Looks Like He's Buried In The Sand At The Beach
帽子を目深にかぶったまま酒瓶を口に加えている
彼はまるで砂浜に埋められているみたいだ


They Took Away The Bottle And The Hat He Was Under
That's The One Thing That He Could Never Do
奴らは酒瓶と彼の上にあった帽子を取り上げた
それは彼が決してすることの出来なかったこと

他にも、
Moon (死や天国のような存在)
Cops(法的なもの、命令、死の傍観者)
Smoke(煙草の煙は、<言うことが出来なかった言葉>としての意味合いが大きい)
Car accident (機能しなくなってしまった人間関係、愛の終わり)

そしてこれらのシンボルは彼の他の詞のなかでもしばしば登場します。


エリオットの決めの最後のフレーズ?

いろんな方が指摘している通り、エリオットの歌詞の最後で締めくくられる言葉はとてもインパクトがあって頭にこびりつくフレーズが多いです。”Condor Ave.” ではこの最後のフレーズは冒頭にあった言い争いのときの言葉で、時間が遡って曲が終わっているような気がするのですが・・・

What A Shitty Thing To Say
Did You Really Mean It?
You Never Said A Word To Me About What Passed Between Us
So Now I'm Leaving You Alone
You Can Do Whatever The Hell You Want To

なんて馬鹿なことを
君は本気で言ってるの?
自分たちにどんなことがあったか何一つ言ってくれなかった
もう出ていくよ
勝手にすればいい


これは彼女のセリフ?それとも僕のセリフ?それとも二人の会話?わからない!YouとIが誰だかわからない(ナレーターは決してはっきりさせない)ので混乱する。深読みしたくなってしまいます。

(誤訳は覚悟の上で・・・)


コンドルアベニュー

彼女はオールズモービルに乗ってコンドルアベニューを通っていく

車の中に閉じこもり、リズムを打つ静寂の中に潜り込む
煌々とした灯り
乾いたかすれ声
僕は乱暴に網戸を叩きつける
呼び鈴が転がり落ち
僕は膝を折れて崩れ落ちる
移動遊園地で聞こえてくる病的な叫びに似た
車を走らせる音に僕は気が滅入る
ちらかっている君のものを拾い上げているけれど
君の服や手紙なんてどうしたらいいかわからない
君のささやきが聞こえてくるんだ

彼女はオールズモービルに乗ってコンドルアベニューを通っていく

移動遊園地に灯りがともされ
彼女が通り抜けた入口に酒酔いの男が座っている
帽子を目深にかぶったまま酒瓶を口に加えている
彼はまるで砂浜に埋められているみたいだ
僕は直線道路で居眠りしてしまうくらい眠たいままで
車を走らせた君を気遣えないよ
その車が決して見つからなければいいのに
奴らは酒瓶と男の上にあった帽子を取り上げた
それは彼が決してすることの出来なかったこと
そして君のささやきが聞こえてくるんだ

彼女はオールズモービルに乗ってコンドルアベニューを通っていく
警官たちが現場に駆けつけ
手がかりを探している
奴らは蛾が電球に寄って死ぬくらいではどうってことないんだ
電球が蛾を本当に愛さない限りは
僕は横たわって
煙草の煙をふかしている
君が受け取ることのない微かな煙のささやきのサインを
オールズモービルに乗る君は月の周りを走っている
君の眼の前には真っ赤に燃えるヘッドライト
そして誰かががコンドルアベニューで燃え尽きる
君のささやきが聞こえそうなのに

なんて馬鹿なことを
君は本気で言ってるの?
自分たちにどんなことがあったか何一つ言ってくれなかった
もう出ていくよ
勝手にすればいい
Na na na na na na (これ大事)

2 comments:

  1. 素晴らしい訳です。
    自分はこの曲は家族間での争いをただ傍観する事しか出来ない無力さをテーマにした曲だと考えていましたが、色々な解釈が出来る奥深い曲だと改めて認識しました。
    エリオットはかつて自分の曲は依存について歌ってるとの事を言っていた記憶がありますが、この曲はまさにその事を歌ってるんじゃないかなと思いました

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    1. コメントありがとうございます!
      そうなんですよね、聞く人によって本当に様々な解釈ができるのが彼の非凡な才能ですよね!おっしゃる通り、アルコールやドラッグは「依存」について語るためのエリオット特有の伝達手段だったんですよね~

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