お久しぶりです。様々な諸事情からずっとお休みしていました。にもかかわらず、このブログを訪ねてくれる人がいたこと、本当に心からありがとうございます。エリオットの音楽はもちろんのこと、このブログのことについてもずっと考えは巡らしていて、また少し再開できるのは嬉しい限りです。
引き続きXOからの曲でPitselehを取り上げたいと思います。今回は、いつもと違って自分の過去の体験を踏まえてこの曲を味わってみたいと思います。解釈の一つと思って頂ければ幸いです。
Pitselehの意味
Pitselehはイディッシュ語で「little one(かわいいひと・子ども)」を意味し、恋人や子供に愛情をこめて呼ぶときに使われるそうです。他にも英語では、honey とか、sweetieとか色々ありますよね。ヒートマイザー時代のガールフレンド(JJゴンソン)の父親が彼女をそう呼んでいたらしく、エリオットもJJに対して使っていたそうです。というわけで、この曲はその彼女、もしくは他の過去の恋愛/友人関係にインスパイアされてできた曲、という見方ができます。自分を愛してくれる人達へ彼自身の正直な気持ちを伝えているようです。彼らが思う「本当の僕」に恋をしても、僕が知っている「本当の僕」は愛する人を傷つけ、苦しめることしかできない、という複雑な感情が音で伝わります。「But no one deserves it」のところで聞こえるピアノはこのアルバムのハイライトですよね。でもこの歌から聞こえてくるのはそれだけじゃない。
Pitselehは、誰への呼びかけ?
それでは、歌詞に出てくる「The silent kid is looking down the barrel」のsilent kid(kid ってけっこうエリオットの歌詞に出てきます)って誰なんだろう?って考えてみます。エリオット自身を投影しつつ、私には両親の離婚や不仲で翻弄され、本来の子供時代を送れず彷徨っているインナーチャイルドへの呼びかけのような気がします。その子供たちは「声」を持つことができなかった。Looking down the barrel ( of a gun) というのはイディオムで、銃口を覗き込んでいる=起こって欲しくない危険(ここではおそらく死の危険)が迫っていることを示唆するそうです。silent, noise, quietの対比が緊張感を高めています。そして現在の自分がインナーチャイルドに対して、足りないものを埋められるパズルのピースにはなれなかった怒りや自責の念といった感情を伝えています。
個人的な体験になるのですが、彼の音楽を聴くとき思い出す人がいます。とはいっても会ったこともないのですが。
今から約20年程前に、カナダに短期間のホームステイをしたことがあります。そこでお世話になったのは、あるご夫婦とその子供4人のうちの2人が一緒に住んでいた家で、あとの2人の子供は独立していました。ある日、独立して近所に住んでいた娘さんがやってきて、家族アルバムを見せてくれました。彼女が言うには、本当は5人兄弟だったらしく、家族写真には「3番目の兄」がいて、彼だけが違う母親から生まれてきた子どもだったのと。私が「今彼はどこに住んでるの」と聞いたら、彼女は「彼は随分前に自殺したのよ」と教えてくれました。
私はすごくショックでした。その家族は仲が良くて、週末には独立していた子ども2人もよく遊びに来ていたし、ご夫婦は面倒見の良い、とても優しい方たちだったからです。ただ、その自殺をした彼を思ったとき、それはどのような苦しみだったのだろうかー自分だけ母親が違うことで自分はその家族に完全に属していないのではないか、生まれてきたこと自体が間違いではなかったんだろうかという自分の存在意義への否定ーそのような疎外感について考えざるを得ませんでした。
エリオットの歌詞によく出てくる「half」という言葉は、そのことを私に深く感じさせます。実母の家でも、実父の家でも、再婚後の家庭がそれぞれあったエリオットはやりにくかっただろうなと思います。
そしてPitselehを聴くとき、私はこの出会ったこともないカナダのステイ先の「3番目の兄」のことを思い出してしまうのです。
また、PitselehはCondor Ave. と並んでライブでの演奏をよく渋った曲で、2003年のHenry Fonda Theatreでは、観客からのリクエストにこうコメントしています。
Pitselehは、長くて退屈だ、、、僕的にはね。歌詞ありきの歌なんだよね。言葉に引っ張られる歌が間違ってるなんてことは全くないんだけど、でもPitselehは僕にはつまらないって感じなんだよ。
たとえ彼がそう言ったとしても、Pitselehの歌詞ってどこを取り出してもすごく印象的で切なくて、深く胸に突き刺さる歌詞だと思います。
Pitseleh
I’ll tell you why I don’t want to know where you are
I got a joke I’ve been dying to tell you
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