ご存じの通り、エリオットが生前残したオフィシャルなミュージックビデオやインタビュー映像は多く残されていませんが、その中でも『Lucky Three』(1997年)と『Strange Parallel』(1998年)の2本は、当時の彼を知ることができる貴重な作品になっていると思います。両者とも、ドキュメンタリーというには情報が少ないし、MVとも呼べないような内容で手作り感にあふれているのですが、彼ってどんな人だったんだろう?って思ったときにはこの2本を見ることはすごく役に立つのではないでしょうか。今回は Either/Or時代の『Lucky Three 』について書いてみます。
ジェム・コーエンさん撮っててくれて本当にありがとう。
『Lucky Three 』
1997年/11分/16mmフィルム
監督 ジェム・コーエン
フガジの1987年から10年間にわたる軌跡を記録した傑作ドキュメンタリー『Instrument』で知られる映画監督ジェム・コーエンによるショートフィルム。あくまでパンクのDIY精神に則った作風。撮影は1996年10月17日から20日にポートランドで行われ、収録曲は3曲(Between the Bars, Thirteen, Angeles)と、冒頭とラストにBaby Britainのアコースティック音源が使われています。
また当時のポートランドのランドスケープの映像もなかなか魅力的です。
Lovejoy Columnsのシーン 1927年から99年にかけて使用された高架橋で、柱はギリシャ移民であったTom Stefopoulosという鉄道会社の警備員が仕事の合間に描いたもので、ごく初期の"グラフィティ"といわれている。ガス・ヴァン・サント監督作の「ドラッグストア・カウボーイ」にも出てきます。現在は高架橋は取り壊されているが、柱は地元の有志達の尽力で一部保存されています。
Ladd's Addition Gardens ポートランド最古の計画住宅地であるLadd's Additionが有するローズガーデン。ESはこの地区に住んでいたそう。ポートランドの別名は「バラの街」というくらいバラに力を入れている。
橋、橋、橋... どれがどの橋なのかいまいちわからなかったのですが、ポートランドの別名は「橋の街」というくらい橋が多いらしい。
Sheridan Fruit Co.というグロッサリー(看板の下で彼がビニール袋をぶら下げている)ここでよく買い物してたんでしょうか。2021年時点でも営業中。
雨、水たまり、ガラスに流れる雨粒... あ、ポートランドは雨の日が多くて、別名「雨の街」ともいわれているんですよね。そしてもう一つの別名は「ヒッピーの街」(どんだけ)
曲が撮影された場所は、
Between the Bars - 自宅のバスルーム、よく見ると洗面所とトイレが見える?静かだったからそこで撮ったらしい。
Thirteen - かつてヒートマイザーが練習していた地下室。「Rock is King」のポスター!
Angeles - 自宅のリビングルーム
全てワンテイクのライブ録音とのこと。
また、MTV "Indie Outing"でのJaneane Garofaloとのインタビューでは、エリオットがこのビデオについて少し話してくれています。
「彼(Jem Cohen)はちょっとした音楽のドキュメンタリーみたいなものを作りたかったんだ。MVやドキュメンタリーのどちらとも言えないような。ポートランドに数日滞在してその辺を歩いていたり、数曲演奏してる僕なんかを撮影してくれたよ。」
エリオットにとっては、当時フガジを撮ってた彼がわざわざポートランドに彼を撮りに来てくれたなんて相当嬉しかったんじゃないかなぁと思うんですけどね。
一方、寡黙なジェム・コーエン監督はこのフィルムについて、
「飾らない最高のミュージシャン、これが僕が思い出すときのエリオットなんだ」
とコメントしています。
ラストシーンはテープを逆回転しているようで、水たまりから傘のようなものが出てきてエリオットが掴むシーンで終わるのですが、チャップリンの無声映画「Between the Showers」がインスピレーションかもという意見をネットで見つけました。タイトルからするとあり得るかもしれませんね。
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