Friday, 18 September 2020

ハーモニーの記憶を辿る- Sweet Adeline

おそらくもう一つのインスピレーション源はコステロのThe other end of the telescope


ドリームワークス移籍後のメジャーデビューアルバム『XO』(1998年リリース)のオープニング曲は、これまでの彼のアルバムのオープニング曲と同じように緻密に計算された上のもので、何度聞いても新しい発見があるのですが、その考えをまとめてみようと思います。

まず、この頃の彼を取り巻く状況ですが、『Either/Or』(97年)からグッドウィルハンティングのサントラへの参加、オスカー出演、メジャーレーベルとの契約(ヴァージンが先にヒートマイザー名義での契約を交わしていたが、最終的にドリームワークスが彼を買い上げる形になった)など一見着実ともいえるキャリアアップを図っていたものの、うつ病、アルコール中毒はより深刻な状態となっており、友人たちが中心となって計画したシカゴでのリハビリも失敗に終わり、ポートランドから逃げるようにNYへと居を移しています。精神状態も良いとはいえず、友人に自殺願望を打ち明けていたようです。

そんな中、レコーディングは97年から98年にかけて、一部は地元ポートランドのJackpot!で、大半はLAのSunset Sound Recordsで行われています。LAのスタジオに入る前には沢山のデモがすでに録音されており、各曲の構想が予め出来上がっていたことが伺えます。

『Sweet Adeline』 はインディーとメジャーを繋ぐブリッジ的存在

オープニングの『Sweet Adeline』はこのアルバムの鍵を開けてくれる曲といえそうです。曲の中盤まではアコースティックギターとエリオットの歌のみの構成(ここではダブルトラッキングではない)それから、コーラス部分で幾重にも重なった歌声と楽器の演奏が一気に溢れ出します。今までのローファイで親密なサウンドから、よりハーモニーとバンドサウンドを重視した奥行きのある音へと変化してXOというアルバムへの見事な橋渡しを果たしています。

この曲は、エリオットの母方の祖母との思い出にインスパイアされてできた曲だと彼は語っています。母方の家族はトラディショナルな音楽に慣れ親しんでおり、おじいさんはディキシーランドジャズのドラマー、おばあさんはSweet Adelinesという名前のコーラスグループに所属していたそうです。 たしかエリオットのお母さんも若いころはコーラスグループで歌っていたはず。小さい頃からスタンダードナンバーは身近な存在だったのは間違いなさそうです。

スタンダードナンバーとのパラレリズム

というわけで、私たちがこの曲を聴くとき、スタンダードナンバーの『スウィートアデライン』が平行して流れているような感じがするんですよね(Clementine と似た手法かな)。しかも曲の構成と歌詞の設定が良く似ています。一番だけ訳したので下記ご覧ください。「夕暮れ」、「写真」、そして写真から呼び覚まされる、愛する人との「記憶」。スタンダードナンバーの『スウィートアデライン』は、過ぎ去りし日々を懐かしみ、恋人への愛を切々と歌い上げるのに対し、エリオットのスウィートアデラインでは、語り手は写真から蘇る記憶を燃やして(=時間を遡る)、記憶をある時点までで留めておきたいと歌われる。Burn it backwardsというのは、ちょうど記憶がフィルムのようにイメージの連続するものだったとしたら、新しいフィルムから順々に古いフィルムまでを消したいということなのかもしれません。そうでなければ愛する人の思い出が憎しみにとって代わられる。第三小節では、怒り、後悔、絶望などがこみ上げ、それが切断されることを語り手は望みます。

フロストの『An Old Man's Winter Night』の引用?

また第二小節目では、床下にいる「kid」とのシュールな会話のようなものが歌われます。ここに出てくるOld Man Winterというのは厳しい冬を擬人化した表現ですが、おそらくアメリカの詩人、ロバート・フロストの詩An Old Man's Winter Nightを引用したもので、この詩の中では、年老いた語り手の暗闇の孤独のようなものが延々と語られます(この詩は難しくて私にはとても訳せません涙)その詩の中で、And having scared the cellar under him (彼の下の地下室を脅かした)という部分があるのですが、すごく意味深なところで、まあ、想像なんですけど、語り手が封じ込めている記憶っていうふうにとれるかなぁと思うのです。なので、エリオットのスウィートアデラインで出てくる「Kid」というのは、語り手が幼い頃に閉じ込めた、恐ろしい孤独な記憶と関連しているのかもしれません。Can you spare sunshineのところのサンシャインというのは、その孤独の中の一筋の光のようなものー語り手が幼い頃に聞いたハーモニーの美しさ、輝き、頭ではなく体で感じた音楽の記憶がコーラス部分で蘇っているようです。

You are just a shooting star (君はただの流れ星)

Shooting star は後にFrom a Basement On the Hillのアルバムの中でも歌われるモチーフ。彼自身を暗示しているようです。そしてスィートアデラインの曲自体も流れ星が輝いて消えていく・・・ようなサウンド。もっと聞いていたいような名残惜しさがあります。

ところで、皆さんはミッシェル・ゴンドリー監督の「エターナルサンシャイン」という映画をご存じですか?私は大好きな映画なんですけど、この映画の脚本は、このスウィートアデラインに多分にインスパイアされたものだと思うんです。いろんな共通点が映画の中に見つけられると思います。

                
Sweet Adeline 
スウィートアデライン
Cut this picture into you and me
Burn it backwards, kill this history
Make it over, make it stay away
Or hate’ll sing the ending that
Love started to say


この写真を君と僕とに切り分けて
逆方向に燃やして 過去を葬り去るんだ
すっかり作り変えて 近づいちゃいけない
でないと愛が言い始めた結末を
憎しみが歌ってしまう


There’s a kid a floor below me singing
Brother can you spare sunshine for a brother
Old man winter’s in the air
Walked me up a story, asking how ya’ are
Told me not to worry, you’re
Just a shooting star


僕の床下にいる子供が歌ってるよ
ブラザー 兄さんのために太陽の光を分けてあげて
冬将軍の気配がするよ
僕のところまで歩いてきて、調子はどうと聞いてきた
心配しなくていいよ、
君はただの流れ星だからって

Sweet Adeline
Sweet Adeline
My Clementine

Sweet Adeline

スウィートアデライン
スウィートアデライン
僕のクレメンタイン
スウィートアデライン

It’s a picture perfect evening and I’m staring down the sun
Fully loaded, deaf and dumb and done
Waiting for sedation to disconnect my head
Or any situation where I’m
Better off than dead

様になる夕暮れだ 僕は日が落ちていくのを眺めてる
ハイになって 何も聞こえない 話せない 酔い潰れてる
頭のスイッチを切るための痛み止めを待っている
もしくは死ぬよりはましな状況を




Sweet Adeline ( Folk & Traditional )
スウィートアデライン(トラディショナル)

http://www.traditionalmusic.co.uk/folk-song-lyrics/Sweet_Adeline.htm

夕暮れ時、過ぎ去った日々を一人夢見ている
私にとって大切な 愛しい人
素敵な姿で映っている写真があのときを呼び起こす
あなたが近くにいた 愛しい人
愛しい人 今はどこにいるの
もし今も変わらず私を想っていてくれたら

コーラス:スウィートアデライン
     私のアデライン
     夜も あなたを恋焦がれる気持ちを
     私のすべての夢で
     あなたの美しい顔が輝いている
     私の心の花よ
     スウィートアデライン

     



Saturday, 5 September 2020

エリオットとカバーソング (4) Care of cell 44, The Zombies



98年4月のライブ。ちょっと明るい感じ?

「僕は何か月間もずっと同じレコードを聴き続けて他のはあまり聴かないんだ、いつも古い音楽ばかりだよ。ほとんど新しいのは聴かない、別に新しいレコードが好きじゃないわけじゃくて、マンハッタンに行くとき何か聴くから一晩中聞きたいテープを持っていくんだ。(中略)だいたいビートルズとか、ハンク・ウィリアムスとか、60-70年代のNY出身のチェンバーポップバンドのレフトバンクみたいなあんまり知られていないのとか。ゾンビーズは好きだよ。」

NYに滞在していた「XO」時代に彼が良く聞いていたゾンビーズ。Care of(C/O) というのは様宛を意味します。刑務所(監房44号室)の囚人が恋人から送られた手紙を読んでいる。もうすぐあなたが自由になって帰ってくる、嬉しいという気持ちを囚人に伝えています。

この曲が入っている大名盤『Odessey and Oracle』も最高です!



2000年5月のライブ。フルバンド演奏(The mindersが参加)