Saturday, 27 April 2019

哲学なのかロックなのか?Ballad of Big Nothing


伝説のNYの1999年大晦日ライブ。見てみたかったなぁ。

1997年5月6日に放送されたLAのラジオ局KCRWのインタビューで、エリオットはアルバムタイトル『Either/Or』の意味について、「キルケゴールの本の名前からとったふざけたタイトルだよ。ロックンロールのアルバムなのにね。」という(インタビュアーに対してやる気なさそうな)発言をしているのですが、このBallad of Big Nothing、一見「無」という哲学的なテーマを含むタイトルでありつつ、私には「ロックについて歌った曲」にも聞こえるんです。というわけで、今回2つの観点から考えてみました。もちろん、

1. 哲学的Big Nothing
ニーチェ的ニヒリズムやサルトルの「存在と無」のような哲学的思想が浮かび上がってきます。人間は原則、何を思っても行動してもいい自由があるものの、いつでもやりたいことをやればいい 好きなようにすればいい 誰も止めたりしない」実際にすべて行動に起こせば、様々な制約や責任、人間関係のもつれがつきまとう。罵って傷つけてばかり 君は毎晩眠らずに 毎日気が沈む」 そしてその渦中で語り手は言う、「意味などない」と。「Big(大きな) Nothing(無)」と歌うことで、その虚無を受け入れて何かを作り出そうというようなポジティブなエネルギーを感じることもできれば、人によっては悲観的な否定と聞こえるかもしれません。

2. ロック的Big Nothing
まず、バラッドとは物語や寓意を含んでおり、語るような口調でリフレインが多い形式の歌のことで、この歌も例に漏れません。語り手は、一番目ではいつも何かを言わずにおれない口汚くて無力な小さいやつ」と歌い、二番目では運び出されるのをただ待っている 少しの時間しか残されていない疲れた男」と対比させています。ここで面白いのは「キャンディー」のメタファーで、一番目のキャンディーは「聴衆を喜ばせるような音楽やパフォーマンス(throwing candy out to the crowd)」であったのが、二番目のキャンディーgetting in to the back of a car for candy from some stranger)は今度は自分を喜ばせるもの、たとえば甘言や名声といったものにすり替っているようです。もちろんドラッグでもいいかもしれません。キャンディーって、甘くて、子供っぽくて、体に悪そうなものを連想させます。新しい音楽が現れては、それが疲弊してまた新しいものと入れ替わるロックミュージシャンの人生の破局のようなものを、エリオット自身も含め「Big Nothing」と歌っているような気がします。

Benjamin Nugent氏による、エリオットの伝記『Elliott Smith and the Big Nothing』では、この曲について、「It is an anti-anthem or ironic anthem (アンチアンセムまたは皮肉ったアンセム)」だと書いています。確かに、コーラスの”Oh Yeah”がちょっと嫌味っぽいと思いませんか?

あと、この曲の歌詞では"ing"が沢山使われているんですよね。エリオットの当時の「今起きていること」が現在形で描かれていて、まるで写真を見ているときのような同時性のようなものを持たせているようです。

Ballad of Big Nothing

throwing candy out to the crowd

dragging down the main
the helpless little thing with the dirty mouth who’s always got something
to say you’re sitting at home now waiting for your brother to call
i saw him down at the alley
having had enough of it all
said you can do what you want to whenever you want to
you can do what you want to there’s no one to stop you
all spit and spite you’re up all night and down every day
a tired man with only hours to go just waiting to be taken away
getting in to the back of a car for candy from some stranger
watching the parade with pinpoint eyes full of smoldering anger
you can do what you want to whenever you want to
you can do what you want to there’s no one to stop you
now you can do what you want to whenever you want to
do what you want to whenever you want to
do what you want to whenever you want to though it doesn’t mean a thing
big nothing

バラッド オブ  ビッグナッシング

人混みにキャンディーを放り投げ
本質を弱らせる
いつも何かを言わずにおれない口汚くて無力な小さいやつ
君は家でじっとして兄弟が電話をかけてくるのを待っている
僕は君が路地を歩いているのを見た
もうたくさんだというふうに
そして言った いつでもやりたいことをやるんだ
好きなようにやればいい 誰も止めなんかしない
罵って傷つけてばかり 君は毎晩眠らずに 毎日気が沈む
運び出されるのをただ待っている 少しの時間しか残されていない疲れた男
見知らぬ人からのキャンディーのために車の後ろに乗り込み
押し殺した怒りで溢れた小さな瞳孔でパレードを眺める
いつでもやりたいことをやればいい
好きなようにやったらいいさ 誰も止めなんかしない

いつでもやりたいことをやればいい
好きなようにやればいい 誰も止めなんかしない
いつでもやりたいことをやるんだ 何の意味もないけれど 
全くの無なんだけど

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