Saturday 3 November 2018

Needle in the Hay 「依存」についてのストーリーテリング



Needle in the Hay
ニードル イン ザ ヘイ

1.
Your hand on his arm
The hay stack charm around your neck
Strung out and thin
Calling some friend trying to cash some check
He’s acting dumb
That’s what you’ve come to expect

お前は彼の腕に手をやる
お前の首には干し草の形のペンダント
ヤク漬けでやせ細っている
友達に電話をして小切手をカネにしようとする
彼はわかってないようなフリ
それはお前がまさに見通していたこと

Needle in the hay
Needle in the hay
Needle in the hay
Needle in the hay

干し草の中の針

2.
He’s wearing your clothes
Head down to toes, a reaction to you
You say you know what he did 
But you idiot kid
You don’t have a clue
Sometimes they just get caught in the eye
You’re pulling him through

彼はお前の服をまとって
頭の先からつま先までお前に呼応する
お前はあいつがやったことだというが
バカなガキだ 
お前に心当たりがないとは
時々目に留まったに過ぎないと
お前は彼をよくしてやろうとしているんだ

Needle in the hay
Needle in the hay
Needle in the hay
Needle in the hay
干し草の中の針

3.
Now on the bus
Nearly touching this dirty retreat
Falling out 6th and powell a dead sweat in my teeth
Gonna walk walk walk
Four more blocks plus one in my brain
Down downstairs to the man
He’s gonna make it all ok

さあ、バスに乗ったら
もうすぐ薄汚いリトリートに手が届く
6番とパウエル通りの境で降りたら僕の口の中には生気のない唾液が
歩く、歩く、歩く
あと4ブロックと僕の頭のなかでもう1ブロック
あの男のところまで階段を降りるんだ
彼が全部なんとかしてくれる

4.
I can’t beat myself
I can’t beat myself
I don’t want to talk
I’m taking the cure so can be quiet whenever want
So leave me alone
You ought to be proud that I’m getting good marks

僕は自分を打ち負かせられない
僕は自分を打ち負かせられない
僕は話をしたくない
僕は手を打ってもらってる だからいつだって望めば静かでいられる
だから僕を放っておいてくれ
僕に立派な跡が残っていくのがお前にはたまらないはず

Needle in the hay
Needle in the hay
Needle in the hay
Needle in the hay

干し草の中の針


ドラッグじゃなくて、「依存」がテーマ

ご存知の通り、セルフタイトルアルバムに収められている1曲目「Needle in the Hay(干し草の中の針)」は彼の曲の中でもとりわけ陰鬱なテーマについて歌われたものです。自分も訳していてしんどかったのですが、エリオットはこの曲でドラッグそのものではなく、下記のインタビューにもある通り、ドラッグも含めた「依存(とくに人間関係についての依存)」について書かれた曲だと幾度となく語っています。それでも英語圏でも未だにきちんと理解されていないんじゃあないかと思いますが、彼自身が残したヒントとこの曲を解釈した人たちの言葉を手がかりに、私なりにこの曲の意味を探ってみました。

「前作(Elliott Smith /セルフタイトル)はドラッグだけのことについてじゃないんだ。ドラッグは依存や自己不足感を表現するための手段だった。恋愛についてでもよかったけれど、それでは僕っぽくなかったから。前のアルバムのインタビューでは、みんな歌をすごく表面的に解釈したんだ。どうしてそんなに沢山ヘロインについての曲があるかを知りたがった。僕はただ曲を作ろうとしているだけでありのままの自分でいることを楽しんでいるんだ。(written by john chandler & w. scott wagner, taken from the rocket 4.9.97)

今ある現実を変えようとしてどうして人はドラッグに手を出すのかということに興味はつきないんだ。(he twisted circle written by nigel williamson, taken from uncut)

こちらのインタビュー翻訳も興味深いです。
https://rockinon.com/news/detail/117425

依存について書かれた小説や映画は沢山ありますが、私は自らの体験を元に書かれたドストエフスキーの「賭博者」が思い浮かびます。彼は賭博を通して、人間の狂気やロシア人気質を描こうとしたわけですが、エリオットは当時彼の住んでいたポートランド(パシフィック・ノースウェスト)にどれだけドラッグが街中を覆っていたかを目の当たりにして、自分にも依存傾向のあることを認めつつも、依存の根源みたいなものを冷静に、客観的に見つめたかったんじゃないかと思います。エリオットの父親は精神科医なのでその手の情報にも明るかったのかもしれません。

肝心の歌詞について気づいたことを書いてみます。曲の解釈の一つにすぎないことをお忘れなく!

歌詞の中の(ややこしい)人称の変化

まずこの歌詞に出てくる登場人物ははHe(彼)you(お前)、I(僕)そして麻薬のディーラーと思われる男(Man)。彼とお前と僕は全て同一人物かもしれません。人称を巧みに操ることによって異なる自我のせめぎ合いを表現しています。

1.
"Your hand on his arm" のところの(Your hand)の正体は「彼」に覆いかぶさってこようとする第二の歪んだ自我、ドッペルゲンガー的存在。首に干し草の形をしたロケットペンダントをかけている。「お前(歪んた第二の自我)」は「彼(空虚な、内なる自分)」が何を求めているか見抜いている。

2.
「彼」は「お前」を身に被ることで(He’s wearing your clothes)「彼(inner)」の存在より「お前(outer)」が優勢になる。茶色の部分は「お前(outer)」が「彼(inner)」に語りかけているように思われる。彼の状況をよくしてやろうとする。この「お前」には破壊的なイメージがつきまとう(You, idiot kid, you don't have a clue.)。

3.
彼とお前は「一体」となり、バスに乗って「薄汚いリトリート」へと向かう。ここからの人称は「I(僕)」となる。”Gonna Walk, Walk, Walk"や”Down downstairs to the man”はヴェルヴェット・アンダーグラウンドの「Run Run Run」や「I am waiting for the man」のドラッグにまつわる歌詞の引用が思い浮かぶ。

4.
一体となってしまった「you」だけを追い出すことができず、ここではドラッグをすることで静まってもらい、「彼」の元から離れていってくれという。だが「僕」の体は確実に蝕まれていく。

「Needle in the Hay / 干し草の中の針」の意味とは?

干し草の山の中から針を探すことが極めて難しいということから至難の業、無駄骨を折るという意味を表すイディオムです。また通常干し草の形をしたロケットペンダントの中には恋人同士が(悩ましく!)抱き合ったりする姿が刻まれています。「you」がかけているロケットペンダントの中には「he」がまさに求めているもの(でも決して手に入らないもの)が入っているのではないでしょうか。また、この曲では中毒者が注射針を求めてさまようイメージも湧きます。均質なものの中の(干し草)異質なもの(針)(=ナレーター自身の疎外感)というものも表している気がします。

エリオットが描いた「依存」とは?

内なる自分が、自分に足りないもの、自分を満たすものを探している。その足りないものを埋めようとして第二の歪んだ自我がそれを満たそうとするが、その際に、何か他のもの(アルコール、薬物、恋愛、人間関係など)に自分を委ねたときそれが達成されたような気分になる。しかしそれでは内なる自分を本当に満たすことは不可能(=干し草の中の針)であり、やがて自己を滅ぼしていくことになる。どんな人にも内なる自分に足りないものを抱えているはずで、私たちは大なり小なり何かに依存しているのかもしれない。普遍的で哲学的なテーマだと思います。ダークなトーンの中に一語、一語選び抜いた当時のエリオットのポジティブなエネルギーを感じませんか?そしてもちろんこの曲から想起されるものはもっともっとほかにもあると思います。

No comments:

Post a Comment