Elliott performing on Saturday Night Live in 1998. from r/elliottsmith
歌のタイトルをクリックしてください。エリオット、ジョン・ブライオン、サム・クームス、ロブ・シュナッフ、The Decemberists のジョン・モーエンという珍しいラインナップ。
今回はエリオット・スミスのもう一つの代表曲であるワルツ#2についてもう少し掘り下げてみようと思います。アメリカのメディアではこの曲が『ビトウィーン・ザ・バーズ』と並んでエリオットのベストソングだと取り上げられることが多い気がします。私にとっては数年ひっかかっていた曲でした。「何故、彼はこの曲を書いたんだろう?」と。
一般的には、この曲はエリオットと実母、そして虐待を受けたかもしれないといわれる継父との関係を歌った自伝的要素の強い作品だと認識されていると思います。カラオケバーで繰り広げられる曲のやりとりから示唆される家庭の機能不全、重苦しい幼少時代を過ごしたテキサスを去った今でも忘れられない母の面影、もう母親を知ることはないけれどどうにか愛していくつもりだと手紙にしたためるように歌う、そんな曲であると。
この歌には様々な感情が呼び起こされるといいます。母への思慕、家を飛び出したことへの罪の意識、継父への怒り、困惑など・・・
もちろん、リリースされた当時、ワルツ#2をそう解釈されることなど彼には容易に想像できたと思うのですが、本当はもっと奥深い意図があったのではないかと思います(というよりかストレートすぎる曲は本人にとって退屈だっただけかもしれませんが)
エリオットの発言をたどれば、彼の曲というのは特定の事象について書いているわけではなく、自身の体験(experience) と観察(observation) から成り立つなんらかの構造(structure)を持っているものであり、レコードや文章といったフィルターを通して、人々の内面、たとえば混沌や欠落などを表現し、結果として他人と共有できる一種の夢を紡げるようなものであってほしいと。難しいからこそ、今までも多くの人が何度も試みてきたことなんだと語っています。また書き終えて初めて自分も「ああ、こういうことについての曲なんだ」と気づくとも(歌詞の赤字のところは初期の歌詞になるので比べてみるのも興味深いです。)エリオットと生前近い存在だった妹のアシュレイ(実母と継父の娘)は、「兄は、聞く人が意味を感じてくれることはどんなことでもそのとおりに受け取って欲しいんだよ、言っていました。」とインタビューで語っています。
そう考えると、ワルツ#2という曲はますます自伝的なものに限定されていないような気がしてきます。
語り手が見ているもの
まず、この歌詞をよく聞いても、いまいち語り手がどのシチュエーションにいるのかわかりません。
ー 前述のように語り手、母親、継父との歌のやりとりをカラオケバー語り手が見ているようでもあるし、
ー 語り手はパフォーマーとして、ある女性とそのパートナーをステージ上で見つけ眺めているようでもある
語り手自身が見ている夢の中の断片みたいな感じもしますよね。
2つの導入曲
カラオケソングのように導入される比喩的な2曲があります。こちらも誰が誰に対して歌っているのか特定しきれない(色々な視点を試すと面白いです。例:継父らしい男→語り手、語り手→母親など)
初めの曲は1960年のエヴァリーブラザーズのヒット曲『Cathy's Clown』という曲で歌詞はこんな感じです。
Don't want your love anymore
Don't want your kisses, that's for sure
I die each time I hear this sound
Here he comes, that's Cathy's clownI gotta stand tall
You know a man can't crawl
When he knows you're tellin' lies and he hears 'em passing by
He's not a man at allWhen you see me shed a tear
And you know that it's sincere
Don't you think it's kinda sad that you're treating me so bad
Or don't you even care?
あなたの愛はもういらないあなたのキスはいらない、間違いないよこの音を聞くたびに僕は死にたくなるまた奴が来た、あれはキャシーの道化師僕は堂々としていなくては男がへつらっているわけにはいかないんだ君が嘘をついているのを知りながら奴らが通りすぎるのを聞いたら男ではいられなくなるあなたは僕が涙を流したのを見た時それが心からだと知っていながら僕にひどい仕打ちをするなんて悲しくないのかそれとも気にもとめていないのか?
もう一曲は、リンダ・ロンシュタットのカバーで有名な『You’re No Good』。カラオケで歌うとスッキリしそうな歌詞です。
Feeling better now that we're through
Feeling better 'cause I'm over you
I learned my lesson, it left a scar
Now I see how you really are
You're no good
You're no good
You're no good
Baby you're no good
I broke a heart that's gentle and true
Well I broke a heart over someone like you
I'll beg his forgiveness on bended knee
I wouldn't blame him if he said to meYou're no good
You're no good
You're no good
Baby you're no good
I'm telling you now baby and I'm going my way
Forget about you baby 'cause I'm leaving to stay
気持ちが良くなったわ もう私たちは終わったから気持ちがすっきりしたわ もう吹っ切れたから私は学んだの 傷ついたけれど今の私はあなたという人がわかる
あなたは酷い人よあなたは酷い人よあなたは酷い人よベイビー 全然いい人じゃないわ優しくて誠実な人の心を台無しにしたのあなたみたいな人のためにひざまずいて彼に許してもらおうと思うわ彼に言われても私は責められないあなたは酷い人よあなたは酷い人よあなたは酷い人よベイビー 全然いい人じゃないわ
あなたに教えてあげる私は自分の道を行くわあなたを忘れるの私はここから去っていく
曲中の女性のポートレート
『彼女は落ち着き払っているように見える、実際そうなんだろう/誰がはっきりわかるというのだろう?/彼女は何の感情も示さず/冷たいチャイナドールのようにぼんやりと前を見つめている』
この描写ですが、私が想像するに語り手は今眺めている女性の中に、母親の姿(like a dead china doll/冷たいチャイナドール)を見出してしているような気がします。その女性と母親は鏡像関係にあり、過去と現在を繋いでいる。語り手は継父の存在があったことで、距離を置いたところからしか母親を愛することが許されなかった事実が、大人になっても自身と人との繋がりに強い影響を与え続け、時に同じような状況を作りだしてしまう。(I’m tired/looking out on the substitute scene疲れてしまったんだ/身代わりの場面に向き合うのは)
聞き覚えのある名前
they’re calling someone/such a familiar name(誰かが呼ばれている/聞き覚えのある名前で)とあるのは、語り手の家族から呼ばれていた名前(familial name)かもしれないし、現在呼ばれている名前(familiar name)かもしれない。いずれにせよ、I’m so glad that my memory’s remote(記憶が薄れていくのが嬉しい)と歌うことで語り手はその場を離れ、聞き手は自身の過去の記憶を思い浮かべるのではないでしょうか。より自伝的なものから離れていくようです。
ありもしないことを考えてるミスター・マン
『You're no good 』の歌も、tell Mr man with impossible plansのミスターマンも、継父を責めているようでありながら、実は語り手の内面の声のようにも聞こえます。もし自分が子供の頃にもう少し違った愛情をもらっていたとしたら?もし自分が愛する人が同じように自分を愛してくれたとしたら?こと人間関係に関しては私たちは過剰に期待したり、反応してしまったりするものですよね。
これから君を知ることはないだろうけど、それでも君を愛するんだろう
I’m never gonna know you now, but I’m gonna love you anyhow
おそらくエリオットスミスの全曲の中で一番有名な歌い文句です。曲の最後に歌詞を繰り返すのは彼の常套手段ですが、聞いた人は誰かを思い出さずにはいられないかもしれません。私たちは移ろいゆく記憶の詳細を覚えることはとてもできませんが、人を愛したという事実は、記憶の中の現在としてずっと変わらず存在し続けるような気がします。かなわなかった場合は特に。もしくは、ほんの一瞬知り合った人にでも、この歌詞のような感情を抱くことがあるかもしれません。
調べてみたらポピュラー音楽にも3/4拍子のワルツは結構あるんですね。ビートルズにも沢山あってジョン・レノンが割と好んで曲にしていたようです(Baby's In Black, Norwegian Wood, She's Leaving Home など)。 テネシーワルツに代表されるように三角関係を歌ったものが沢山ありますよね。ワルツ#2でもやっぱり3という数字は意識されているようで、幼い頃の語り手、母、継父の関係、そして、語り手、母、女性の関係、そして過去、現在、未来についても歌われている気がします。
筆者注:Norwegian Wood は正確には6/8拍子になるとご指摘頂きました。記事を読んで、ご不明な点や疑問点等ありましたら、ご一報頂ければ本当に嬉しいです!
Waltz #2 (XO)first the mic then a half cigarettesinging Cathy’s clownthat’s/to the man that she’s married to nowthat’s the girl that he takes around townshe appears composed, so she is, I supposewho can really tell?she shows no emotion at allstares into space like a dead china dollI’m never gonna know you now, but I’m gonna love you anyhownow she’s done and they’re calling someonesuch a familiar name(such familiar names)I’m so glad that my memory’s remote‘cause I’m doing just fine hour to hour, note to notehere it is the revenge to the tune(he’s gonna have his revenge to the tune)(he knows the words but he can’t sing the tune)“you’re no goodyou’re no good you’re no good you’re no good..”can’t you tell that it’s well understood?I’m never gonna know you now, but I’m gonna love you anyhowI’m here today and expected to stay on and on and onI’m tiredI’m tiredlooking out on the substitute scenestill going strong(where we belong)xo, mom(me and my mom(I love you, mom)it’s ok, it’s alright, nothing’s wrong(it’s all wrong)tell Mr man with impossible plans to just leave me alonein the place where I make no mistakesin the place where I have what it takesI’m never gonna know you now, but I’m gonna love you anyhowI’m never gonna know you now, but I’m gonna love you anyhowI’m never gonna know you now, but I’m gonna love you anyhow
ワルツ #2
はじめにマイク、そして吸いかけの煙草
「キャシーズ クラウン」を歌いながら聞き覚えのある名前であれは今彼女が結婚している男あれは彼が街を連れ歩く女彼女は落ち着き払っているように見える、実際そうなんだろう誰がはっきりわかるというのだろう?彼女は何の感情も示さず冷たいチャイナドールのようにぼんやりと前を見つめているこれから君を知ることはないだろうけど、それでも君を愛するんだろうもう彼女は歌い終わって、誰かが呼ばれている(such familiar namesここでは名前が複数形)
記憶が薄れていくのが嬉しい
だって僕は刻一刻、一音一音 うまくやっているから
これがその歌への仕返しさ
(he’s gonna have his revenge to the tune 彼はその歌に仕返ししようとする)
(he knows the words but he can’t sing the tune歌詞を知っているのに彼は歌を歌えない)
「あなたは酷い人、あなたは酷い人、あなたは酷い人」
そんなこと百も承知だってわからないの?
これから君を知ることはないだろうけど、それでも君を愛するんだろう
僕は今日もここにいて ずっとずっと居続けるってことになってる
疲れたよ
疲れてしまったんだ
身代わりの場面に向き合うのは
未だ強くなるばかり
(where we belong me and my mom 僕と母さんがいるところ)
愛をこめて 母さん
(I love you, mom愛しているよ、母さん)
OK、いいんだ、何もおかしくないよ(it’s all wrong全て間違いなんだ)
ありもしないことを考えているミスター・マンに僕に構うなと伝えてくれよ
僕が過ちを犯さないところで
僕に何が必要かわかっているところでこれから君を知ることはないだろうけど、それでも君を愛するんだろう
初期バージョン
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